対戦相手のサウジは、カタールW杯で指揮を執っていたエルベ・ルナール監督が、ロベルト・マンチーニ監督の更迭に伴って昨年10月に復帰したが、パスをつなぐスタイルは不変と見られる。

　となれば、前田が前線からの“鬼プレス”でボールを奪い、ゴールに突き進むチャンスも増えてくる。背番号11を付ける韋駄天には圧倒的なスピードと走力があるし、ボールが入らなくても繰り返しアップダウンする献身性も併せ持っている。そのストロングは上田や小川にはない部分なのだ。

「10回走って１回しかボールが来なくても、やっぱり９回もゴール前に入るっていうのは自分の持ち味でもある。僕自身は普段の試合でも普通のことをしてるだけかなと思います」と前田は話していたが、それだけ黒子の動きを繰り返せるアタッカーは世界を見渡しても少ない。

　その強みは日本が北中米W杯本番で強豪を撃破していくうえで必要不可欠。今回のサウジ戦でも持てる能力の全てを出し切り、敵を凌駕してほしい。

「自分の代表での立ち位置を上げるためには、もっともっと自チームで結果を残さなきゃいけないし、どんどん上を目ざしていかないといけない。そういったところからかなと思います」とも前田は語ったが、より高いステージに辿り着くためのステップアップは大いに歓迎したいところだ。
 

　少し先の話だが、仮に今夏、スコットランドから欧州５大リーグに赴く場合には、試合に出られなくなるリスクも伴う。W杯本番を視野に入れると難しい決断に他ならないが、前田はそれを気にせず、大胆なチャレンジに打って出る覚悟のようだ。

「『行ったチームで出れない』とか、そういうのを考えずに、『チームのために戦う』っていう、もうそれだけなんで、それができればいいかなっていうふうに思います」

　前田はこれまでも新たな環境を恐れない勇気とアグレッシブさで数々の壁をこじ開けてきた。その勇敢さは森保一監督も認める部分。その指揮官とともに２度目のW杯を成功させるためにも、上へ上へと上り詰めていくべきだろう。

　まずは25日のサウジ戦で代表通算５ゴール目をゲットし、今後に弾みをつけることが肝心。誰もが認める目覚ましい進化を色濃く印象付け、力強い一歩を踏み出してもらいたいものである。

取材・文●元川悦子（フリーライター）

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