シメオネがジュリアーノに課した要求の一つは、サイドを主戦場にしながら、得点を決めることだ。下部組織時代のジュリアーノは典型的なCFだった。そんな彼を１部の選手たらしめているのが時速35キロに達したこともあるスピードだ。

　昨シーズン、アラベスがホームにアトレティコを迎えた試合で、今ではチームメイトとなった選手たちに手を焼かせたのもそのスピードだ。左ウイングで起用されると、アトレティコ守備陣を翻弄。勝利（２－０）の立役者となった。この一戦が現在ドレッシングルームを共にする選手たちのリスペクトを勝ち取るきっかけにもなった。

　ジュリアーノにとっては、試練を乗り越えたからこそ手にした報いでもあった。昨シーズン開幕前最後の親善試合で、ジュリアーノは足の脛骨と腓骨を骨折した。この時ばかりはシメオネは父親の役割を果たすことを躊躇しなかった。

　アトレティコのプレシーズンのツアー全日程を終えてスペインに帰国し、スマホの電源を入れた際に、彼は息子に深刻な出来事が起こったことを知った。10時間以上のフライト後、車でアラベスのホームタウンのビトリアに向かい、サッカー選手に怪我は付き物で、この経験をバネに一回りも二回りも成長してほしいと励ました。
 

　ジュリアーノはしっかりそのメッセ―ジを受け取って、心身両面で強さを発揮。当初の見込みより１か月以上早く復帰し、その後のシーズン終盤での活躍がパリ五輪に出場するアルゼンチン代表のメンバー入り、そしてアトレティコ復帰へと繋がっていった。

「アトレティコに来てから、努力するだけを考えている。いつも言っているように、僕の人生のクラブだ。毎朝起きるのがとても嬉しい。僕にとって、世界チャンピオンやアトレティコのレジェンドである経験豊富な選手たちと一緒に練習できることは、素晴らしい機会だ。その幸運を最大限に活かして、彼らから何か一つでも多くのことを学び成長していきたい」と、ジュリアーノはザルツブルク戦後に語った。公の場で発言する際に、謙虚さを失わないことも父親から課せられている要求の一つだ。

　もはや周囲がジュリアーノに対して、熱血漢だったシメオネの現役時代とリンクさせることは避けられない。本拠地「リヤド・エア・メトロポリターノ」で浴びる喝采はその何よりの証だ。

　スタジアムはチョロ（シメオネの愛称）がそうであるように、ジュリアーノがファンを鼓舞するジェスチャーをすると大歓声が上がる。いくら冷たい関係を装っても、意味をなさないシチュエーションもある。アトレティコは、試合中において感情を喚起する２人の振付師を擁する唯一のチームだ。１人はベンチに、もう１人はピッチにいる。

文●ラディスラオ・J・モニノ（エル・パイス紙アトレティコ・マドリー番）翻訳●下村正幸

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