無論、来シーズンに開幕から躓けば、ふたたびムードが悪化しかねない。心強いのは、ヴェンゲル自身が早くも補強の構えを見せている点だ。育成と経営への配慮から「買い控え」を続けてきた指揮官が、「新戦力3名の獲得が妥当」と発言。チームを縦に貫く背骨の強化が目的となる。
最優先は前線の補強だ。膝を痛めたダニー・ウェルベックの長期離脱(全治9か月)が仮になかったとしても、16ゴールを挙げたオリビエ・ジルーがチーム最多得点者というCFは、やはり心許ない。
アストン・ビラ戦ではハットトリックを飾ったとはいえ、格下をいたぶることはできても強豪相手の試合で“消えてしまう”と評されるジルー。難しいゴールを決める一方で簡単なシュートを外す癖もあり、ウェストハムとの開幕戦(0-2)で逃した二度の決定機をはじめ、逸したゴールは10点台に達するだろう。
次に優先順位の高い補強ポイントはCB。中盤中央には最終節でスタメンに復帰したジャック・ウィルシェアとサンティ・カソルラを含めて駒数があるものの、最終ライン中央は人材不足が明らかだ。
ウェストハムに雪辱を果たし損ねた32節(3-3)、接触を恐れるかのように距離を空けてアンディ・キャロルにハットトリックを許した4バックには、強さと高さ、そして勇気と集中力を備えた新CBが必要だ。
はたして来シーズンはヴェンゲル体制最後の年になるのか、噂どおり新たに3年契約が結ばれるのか? いずれにしても、アーセナルが果敢に優勝を狙うのは間違いない。
先頭に立つ指揮官が言っている。「後方の18チームは羨むだろう。だが、われわれは不満だ。2位ではなく、1位でシーズンを終えたい」と。
文:山中忍
【著者プロフィール】
山中忍/1966年生まれ、青山学院大学卒。94年渡欧。イングランドのサッカー文化に魅せられ、ライター&通訳・翻訳家として、プレミアリーグとイングランド代表から下部リーグとユースまで、本場のサッカーシーンを追う。西ロンドン在住で、ファンでもあるチェルシーの事情に明るい。