ラニエリ一行の優勝を素直に喜べない心境で朝を迎えた国民は、トッテナム・ファンを除けば、ブックメーカー(賭け屋)の経営者くらいだろう。開幕前に不可能を意味する5001倍の優勝オッズをつけた代償としての報酬金の支払総額は、2500万ポンド(約42億円)に上るという。
 
「10億倍でも賭けなかったと思う」と語ったのは、レスター出身のガリー・リネカー。トッテナムでも活躍した元FWは、夢にも思っていなかった地元クラブの優勝決定を前に、「まさか、スパーズ（トッテナムの愛称）がチェルシーに勝たないように祈ることになるとはね。後ろめたいけど、これが最初で最後だから」とツイートしていた。

「レスター・デー」明けの国内は、「不可能などない」といったポジティブなムード。レスターがチャンピオンズ・リーグを戦う来シーズンにも前向きだ。
 
「イングランドの王様たち」の見出しで優勝を伝える『ガーディアン』紙の１面には、リチャード三世の肖像画が添えられた。15世紀のイングランド王は、奇跡的に即位したプレミア王者に先立って、４年前の遺骨発見でレスター市に国民の目を向けさせたキングでもある。
 
　肖像画の横には、当人の一生を描いたシェイクスピア史劇中の独白が。レスター優勝に際して手が加えられた台詞には、こうある。
 
「来シーズンもやってみせる。今シーズン以上に。マドリードやミュンヘンは、われわれの意志の強さを思い知ることになる」と。
 
文：山中忍
 
【著者プロフィール】
山中忍／1966年生まれ、青山学院大学卒。94年渡欧。イングランドのサッカー文化に魅せられ、ライター＆通訳・翻訳家として、プレミアリーグとイングランド代表から下部リーグとユースまで、本場のサッカーシーンを追う。西ロンドン在住で、ファンでもあるチェルシーの事情に明るい。