ガセが請け負っているのは短期間の、しかも複雑で困難なミッションだ。この好戦家でなければ、おいそれと引き受けられる仕事ではなかったに違いない。なにしろガセが監督に就任する前のマルセイユは、公式戦9試合でたったの1勝しかできず(5分け3敗)、その1勝もクープ・ドゥ・フランス(フランス・カップ)9回戦で5部リーグのクラブから収めた1-0の辛勝だったのだ。
どん底のそうしたチームを救うには、南仏のモンペリエ生まれで、歌うような特有の訛りのフランス語を喋る百戦錬磨の監督を呼ぶしかなかったのだろう。実際にガセはそれこそバッグひとつでやってくると、瀕死のチームを救命してみせたのだ。
ガセのコーチングキャリアは、助監督時代が長かった。01~04年はパリSGとスペインのエスパニョールで、現役時代はフランス代表MFだったルイス・フェルナンデス監督を補佐している。07~16年はボルドー、フランス代表、そしてパリSGで、98年ワールドカップの優勝メンバーとなったロラン・ブラン監督の副官を務めていた。
前述したマルセイユの5連勝は、ガセが革命的な戦術を注入して収めた結果というわけではない。ただし、選手起用の選択は的確だった。それぞれを本来の持ち場に置き直し、チームに自信を蘇らせたのだ。
たとえば、どちらもセネガル代表FWで入団1年目のイリマン・エンディアイエとイスマイラ・サールがそうだった。ガセ新政権下での5連勝中に、エンディアイエは2ゴール・1アシストを、サールは1ゴール・4アシストを記録している。
ガセ新監督が、誰よりも多くピッチ上での自由を与えている選手は、ピエール=エメリク・オーバメヤンだ。チーム同様に調子を落としていたこのガボン代表のストライカーは、例の5連勝中に8ゴールを量産してみせた。昨シーズンの公式戦でチームトップの18ゴールを記録し、一躍アイドルとなったアレクシス・サンチェス(現インテル・ミラノ)の退団をマルセイユのサポーターたちは嘆いていたが、ここにきてその幻影をオーバメヤンが吹き消している。
34歳となり現在のマルセイユで最年長のオーバメヤンは、70歳のガセと同様、「まだ終わっていない」ことを証明してみせた。実際に今シーズンのELでは10試合に出場し、10ゴールと得点ランキングの単独トップに立っている。