冨安自身も怪我からの復帰戦、しかも今大会初出場ということで難しさはあるかもしれないが、最終ラインでの的確で強固な統率力が強く求められてくる。

　仮にベトナム戦のように最前線から上手くプレスをハメられないような展開に陥ったとしても、後ろからの声掛けで修正を図り、強度を落とさない組織的守備をさせるべく、チーム全体を動かしていくことが肝要だ。

「もしオーガナイズされていないとしても、強度で負けなければいい」と冨安自身も強調した。とりわけイラクは強度とアグレッシブさに秀でたチーム。少しでも緩い部分があれば、カウンターやセットプレーで隙を突かれかねない。

「ベトナム戦は緩さがあった」と歯に衣着せぬ物言いを見せた守備の大黒柱には、アーセナル仕込みの高い基準を体現し、強力なリーダーシップを発揮してほしい。

　そのうえで、得点にも絡めれば理想的。すでに日本代表で出場37試合とDF陣最多キャップ数を誇る冨安だが、ゴール自体はまだ１点。先述のサウジアラビア戦で挙げたヘディング弾だけだ。

　70％以上ボールを支配されたあのゲームで、冨安の一撃は非常に大きなインパクトがあったが、そこで数字が止まっているのは、やはり物足りないと言うしかない。
 

　背番号22の先輩である中澤佑二が17点、吉田が12点と共に二桁ゴールを挙げ、要所要所でチームを窮地から救ってきたことを考えると、長身DFの冨安も攻撃面で存在感を示すべきだ。

「セットプレーでなくてもいいですよね」と本人は笑ったが、今大会はリスタートが１つの重要なカギになるのは確か。16日にオマーンに競り勝ったサウジアラビアも、最後の最後に左CKからのヘッド弾で逆転勝利を収めている。

　そういうプレーが冨安を筆頭に、板倉、町田浩樹（ユニオンSG）、伊藤洋輝（シュツットガルト）ら長身DF陣に飛び出せば、チームにとって力強いアドバンテージになるはずだ。

「明確な数字はこの大会の自分の中にありますし、それを達成できるようにしたいです」と冨安は不敵な笑みを浮かべていた。その数字が２点なのか、３点なのか分からないが、日本を勝たせてくれればそれでいい。

　冨安健洋というアジアレベルをはるかに超えた最高レベルのDFのクオリティと精度、戦術眼、人間力をいかんなく発揮し、イラクを圧倒してほしいものである。

取材・文●元川悦子（フリーライター）

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