今回のブスケッツ落選に驚きを露にしたのは、メディアだけではない。かつてのチームメイト、エリック・アビダルはこう語る。「今回のリストを作った人物は、サッカーをまるで理解していない」

　スペイン代表のビセンテ・デル・ボスケ監督は、「自分が選手だったら彼のようになりたいものだ」と、かねてからブスケッツを高く評価する。

　シャビがカタールに去る前に語った内容も興味深い。「個人的にブシー（ブスケッツの愛称）のプレーの虜だ。バルサの僕の後継者はブシー。今後10年間に渡ってバルサをリードする存在だ」

　10年後、ブスケッツは36歳になっている。彼のポジションなら十分プレーは続けられる。「ゴールを決めないし、アシストも少ない。目立つポジションでもないから」と語るのはブスケッツ本人。数字に追われないぶん、精神面での疲弊も少ない。

　今回、最優秀監督賞に選出されたルイス・エンリケは、ジョゼップ・マリア・バルトメウ会長の説得にもかかわらず、頑なに受賞式への出席を拒んだ。その指揮官も「私がこれまで指揮してきた中で最も頭のいい選手。世界最高の守備的ミッドフィルダーだ」と、ブスケッツへの賛辞を惜しまない。

　もしかしたら彼の頭の中には、必ずしも実力ではなく、メディア露出や人気で決まりがちな昨今のバロンドールというイベントに対する、自分なりの抗議の気持ちがあったのかもしれない。


文：豊福晋
 
【著者プロフィール】
豊福晋／1979年、福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経て、フリーで取材・執筆活動を開始。イタリア、スコットランドと拠点を移し、09年夏からはスペインのバルセロナに在住。リーガ・エスパニョーラを中心に、４か国語を操る語学力を活かして欧州フットボールシーンを幅広く、ディープに掘り下げている。独自の視点から紡ぐ、軽妙でいて深みのある筆致に定評がある。