“そこ”にパスを通した中野と、“そこ”を狙っていた大久保。
「やっぱり嘉人さんは“そこ”にいてくれる」(中野)
中野は開始2分のゴールをそう振り返る。“そこ”とは、GKとDFの間でファーサイドのスペース。“そこ”の共通認識が先制点を導き出したのだ。
「中野だけじゃなく、他の選手にもうるさいぐらいにずっと言っている。(G大阪戦の)1点目のコースには、みんなパスをなかなか出せない。でも、パスを出す瞬間は相手がボールウォッチャーになって、普通はGKに任せる。だから“そこ”に出せば絶対に入る。みんなが覚えてくれればいいね」(大久保)
そして、最大の見せ場は55分のプレーだ。左サイドでボールを受けた中野は、迷わずドリブルでエリア内に侵入。対峙した米倉を今度は切り返しでかわし、ワンテンポ置いてから右足を振り抜くと、ボールはゴールに吸い込まれてJ1リーグ初ゴールをマークした。
「決まった瞬間は嬉しかったです。だから、あんまりはっきりとは覚えてないです」
中野が非凡なのは、このゴールが駆け引きに裏打ちされたものだからだ。開始1分のプレーで米倉を抜き去った時は、スピードを活かして縦に突破した。そして自らのゴール場面では、相手の心理を読み切って、縦ではなく中へ侵入したという。
「1点目の時に(米倉を)縦に抜いたのもあるし、その後も何回か仕掛けていて、相手(米倉)が縦を切ってきたので簡単に中に行けた。あんまり綺麗なゴールには見えないけど、狙いどおりにタイミングを外して打てました」
醸し出す雰囲気は22歳の「穏やかな青年」だが、発言の裏にはドリブラーの強烈な矜持が透けて見える。それは代表SB米倉に対する強気のコメントからも十分に汲み取れる。
「1点目を取れた時に(米倉は)あんまり守備が得意じゃないのかなと思って、これは行けるなと」