「意地でもしがみつく覚悟で」
「辞める決断」という言葉は想像以上に重い。それでも彼には支えてくれるチームメイト、スタッフ、サポーター、そして愛する家族がいた。大島は2017年9月に結婚し、昨年8月には第一子が誕生。家での時間はかけがえのないものだったという。そして大好きなサッカーを再び思いっきりプレーしたいという想いもやはり強かった。
「意地でもしがみつく覚悟でリハビリをしているので、チームからいらないと言われるまでは、とにかく自分がすべきことをしなくてはいけないと感じています。
だからこそ支えといえば、たくさんの方の顔が浮かびますし、僕自身、思いっきりサッカーをしたいという想いが一番です。たくさんサッカーをしたいという気持ちで粘っている形ですね」
では、子どもが物心つくまで、自分がプレーしている姿を覚えてもらえるような年齢になるまでプレーしたい想いもあるのか。その質問には否定する。今は一歩ずつ。
「その時になったら思うかもしれないですが、今は本当に思いっきり自分がサッカーをしていることで、妻が喜んでくれると思うので、その想いが強いかもしれませんね」
「意地でもしがみつく覚悟でリハビリをしているので、チームからいらないと言われるまでは、とにかく自分がすべきことをしなくてはいけないと感じています。
だからこそ支えといえば、たくさんの方の顔が浮かびますし、僕自身、思いっきりサッカーをしたいという想いが一番です。たくさんサッカーをしたいという気持ちで粘っている形ですね」
では、子どもが物心つくまで、自分がプレーしている姿を覚えてもらえるような年齢になるまでプレーしたい想いもあるのか。その質問には否定する。今は一歩ずつ。
「その時になったら思うかもしれないですが、今は本当に思いっきり自分がサッカーをしていることで、妻が喜んでくれると思うので、その想いが強いかもしれませんね」
周囲の支え、その中には鬼木達監督の存在も忘れられないだろう。
件のパリ戦の直前に負傷した際にはこうメッセージを送っていた。
「すごく残念に思いますし、(今年6月に)復帰してから、すごく良いパフォーマンスを続けており、これからもっと上がってきそうだなという雰囲気がありました。ただ一番残念に思っているのは本人だと思いますし、彼の復帰までの道のり、努力をみんなが見てきて分かっていたので……。
パリと試合をすることを楽しみにしていた選手のひとりでもあったんです。怪我する当日かな、パリ戦に向けて『どうだ?』と話しかけて『楽しみです』と口にしていたので、やはり残念な想いが強いですが、彼の力が必ず必要になる時がきます。
彼の力が必要になる時に自分たちがしっかり優勝争いをしている状況にいることが、彼の復帰へのモチベーションを上げるでしょうし、また強くなって帰ってきてほしいですね」
大島がリハビリに励んでいる際も、指揮官は気にかけながら、彼の心情を慮るような声かけも意識していたという。
「『大丈夫か?』と聞くと、『大丈夫』と答えるはずなので、そう訊かないほうが良いんだろうなとか、自分の訊き方ですよね。彼が自分から『こういう状況です』と、話せるような聞き方をしたほうが良いとは考えていましたね。
それは僚太だけではなく、他の選手も自分の聞き方で、決まった答えしか返ってこないような状態を作らないように気を付けています。
ただ僚太は当然、不安があるところはあると思いますが、今、気持ち的に乗り越えてきたかなとも感じています。不安がありながらチームに貢献したい、なんとかしたいという想いがあったはずで、だからリハビリのなかでも今回、僕は前向きに取り組んでいるなと感じていました。すごく変わってきているのではないかなと。
だからやるべきことをキチンと把握している選手ですし、魅力あるサッカーをしようとしているなかで、そういうものを表現できる選手のひとりでもあるので、期待はすごくしています。ただゲームのなかでの使い方は自分の判断と本人と話しながら、上手にやっていければなと思いますね」
そうした指揮官の気遣いに大島も感謝の想いを抱いている。
「普段の会話で『足どうだ?』と気にかけてくれますし、それ以外のコーチもそうですが、これだけ怪我を繰り返しているなかで、そうした言葉をかけてくれるのは嬉しいです。折れないで頑張ろうというところにつながりますね」
チームはこの鳥栖戦の勝利で消化試合がひとつ多いながら、横浜から首位の座を奪い返した。苦しいシーズンではあるが、悲願のリーグ3連覇への道が見えてきた形だ。
優勝争いをしているなかでの復帰は「プレッシャーになる部分もありますが」と大島は冗談交じりに笑顔を見せるが、「刺激になる」と気を引き締める。
示していきたいプレーを尋ねれば、らしい答えも返ってくる。
「自分が相手に与えられる影響を考えた時に、すべきことは対戦相手によって違うので、ずっと考えて、その都度変えていきたいですね」
相手を見て、味方を見て、その時のシチュエーションでプレーを変え、ポジションニングを調整する。まさに先輩の中村憲剛らが示してきた、“川崎らしさ”が凝縮される振る舞いである。
その中村からは周囲に「自分の想いをもっと伝えたほうが良い」とアドバイスももらったという。
若手にとっては一つひとつの言葉が金言だ。優しい性格だからこそ、相手に合わせることも多いのだろうが、29歳になった今、チームに影響を与える立場としても改めて重要な役割を担うのだろう。
ただ今後を見据えれば、本人としては不安が尽きないはず。
それでも彼がピッチで戦い、舞う姿に人々は魅了される。怪我の苦しみは本人しか分からないはずだ。それでも誰もがその背中に期待し、待ち続けるのは、大島僚太という存在がやはり特別なプレーヤーだからこそである。彼の笑顔はなんと言っても等々力に似合う。そのシーンは何度見たってたまらないのである。
取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)
件のパリ戦の直前に負傷した際にはこうメッセージを送っていた。
「すごく残念に思いますし、(今年6月に)復帰してから、すごく良いパフォーマンスを続けており、これからもっと上がってきそうだなという雰囲気がありました。ただ一番残念に思っているのは本人だと思いますし、彼の復帰までの道のり、努力をみんなが見てきて分かっていたので……。
パリと試合をすることを楽しみにしていた選手のひとりでもあったんです。怪我する当日かな、パリ戦に向けて『どうだ?』と話しかけて『楽しみです』と口にしていたので、やはり残念な想いが強いですが、彼の力が必ず必要になる時がきます。
彼の力が必要になる時に自分たちがしっかり優勝争いをしている状況にいることが、彼の復帰へのモチベーションを上げるでしょうし、また強くなって帰ってきてほしいですね」
大島がリハビリに励んでいる際も、指揮官は気にかけながら、彼の心情を慮るような声かけも意識していたという。
「『大丈夫か?』と聞くと、『大丈夫』と答えるはずなので、そう訊かないほうが良いんだろうなとか、自分の訊き方ですよね。彼が自分から『こういう状況です』と、話せるような聞き方をしたほうが良いとは考えていましたね。
それは僚太だけではなく、他の選手も自分の聞き方で、決まった答えしか返ってこないような状態を作らないように気を付けています。
ただ僚太は当然、不安があるところはあると思いますが、今、気持ち的に乗り越えてきたかなとも感じています。不安がありながらチームに貢献したい、なんとかしたいという想いがあったはずで、だからリハビリのなかでも今回、僕は前向きに取り組んでいるなと感じていました。すごく変わってきているのではないかなと。
だからやるべきことをキチンと把握している選手ですし、魅力あるサッカーをしようとしているなかで、そういうものを表現できる選手のひとりでもあるので、期待はすごくしています。ただゲームのなかでの使い方は自分の判断と本人と話しながら、上手にやっていければなと思いますね」
そうした指揮官の気遣いに大島も感謝の想いを抱いている。
「普段の会話で『足どうだ?』と気にかけてくれますし、それ以外のコーチもそうですが、これだけ怪我を繰り返しているなかで、そうした言葉をかけてくれるのは嬉しいです。折れないで頑張ろうというところにつながりますね」
チームはこの鳥栖戦の勝利で消化試合がひとつ多いながら、横浜から首位の座を奪い返した。苦しいシーズンではあるが、悲願のリーグ3連覇への道が見えてきた形だ。
優勝争いをしているなかでの復帰は「プレッシャーになる部分もありますが」と大島は冗談交じりに笑顔を見せるが、「刺激になる」と気を引き締める。
示していきたいプレーを尋ねれば、らしい答えも返ってくる。
「自分が相手に与えられる影響を考えた時に、すべきことは対戦相手によって違うので、ずっと考えて、その都度変えていきたいですね」
相手を見て、味方を見て、その時のシチュエーションでプレーを変え、ポジションニングを調整する。まさに先輩の中村憲剛らが示してきた、“川崎らしさ”が凝縮される振る舞いである。
その中村からは周囲に「自分の想いをもっと伝えたほうが良い」とアドバイスももらったという。
若手にとっては一つひとつの言葉が金言だ。優しい性格だからこそ、相手に合わせることも多いのだろうが、29歳になった今、チームに影響を与える立場としても改めて重要な役割を担うのだろう。
ただ今後を見据えれば、本人としては不安が尽きないはず。
それでも彼がピッチで戦い、舞う姿に人々は魅了される。怪我の苦しみは本人しか分からないはずだ。それでも誰もがその背中に期待し、待ち続けるのは、大島僚太という存在がやはり特別なプレーヤーだからこそである。彼の笑顔はなんと言っても等々力に似合う。そのシーンは何度見たってたまらないのである。
取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)