ダビド・デ・ヘアの充実したパフォーマンスには、目を見張るものがある。
 
　今シーズンはここまで公式戦の全試合にフル出場。神がかり的なスーパーセーブを連発し、最後尾からチームを支え続けている。課題とされたハイボールの処理も著しく改善し、見事な反射神経と手足のリーチの長さを活かして、至近距離のシュートもことごとくブロックする。
 
　チームメイトのMFダレイ・ブリントが「間違いなく世界最高峰のGK」と絶賛するように、24歳のスペイン人守護神はマンチェスター・ユナイテッドを代表する中心選手へと成長した。
 
　間もなく発表されるPFA（プロ選手協会）の年間ベストイレブンのGK部門は、このデ・ヘアで決まりだろう。同じく好セーブを連発しているチェルシーのティボー・クルトワも捨て難いが。
 
　しかし、そのデ・ヘアが去就問題で揺れている。2016年夏に満了する現行契約の更新がまだで、今夏の移籍が現実味を帯びてきているのだ。クラブと代理人による話し合いは続いているが、レアル・マドリーが触手を伸ばしているとも伝えられ、去就を巡ってさまざまな憶測が飛び交っている。
 
　当のデ・ヘアは「プレミアリーグは自分が成長できる場所」と位置づけ、残留に前向きな発言を残している。４年目となったマンチェスター暮らしにも慣れたようで、環境面に関して言えば、残留に向けて障壁はないように映る。
 
　しかし気がかりなのが、デ・ヘアのガールフレンドで歌手のエドゥルネ・ガルシアの存在だ。彼女は寒冷で雨の多いマンチェスターの街が気に入らず、マドリードを拠点にしたままデ・ヘアとは遠距離恋愛を続けている。伝え聞いたところでは、マンチェスターで住居を購入しようとしたデ・ヘアに待ったをかけたのが、このエドゥルネだったという。ユナイテッドにしてみれば、実に頭の痛い問題だ。
 
　いずれにしても、ユナイテッドは今夏には結論を出さなければならない。契約満了後にフリーで手放す選択肢は考えられないからだ。デ・ヘアの推定市場価格は、ざっと3000万ポンド（約51億円）。契約下にある今夏に売却すれば、大きな移籍金収入が見込める。
 
　もちろん、デ・ヘアを失うのは戦力的には甚大な損失だ。穴を埋める正守護神を見つける必要がある。
 
　冬の移籍市場で元バルセロナのGKビクトール・バルデスを獲得してはいるが、これまでの故障歴、さらに33歳という年齢を踏まえると、ルイス・ファン・ハール監督が正GK候補と見なしているとは考えにくい。
 
　ファン・ハールがリストアップしている後任候補は、トッテナムのユーゴ・ロリスやニューカッスルのティム・クルルだと伝えられる。ロリスには「最終ラインの統率力」、クルルには「英語力」という、いずれもデ・ヘアにやや欠けていた強みがある。
 
　ユナイテッドはデ・ヘアの慰留に全力を尽くすだろう。とはいえ、仮に手放すことになったとしても、この世の終わりというわけではない。
 
【記者】
Mark OGDEN｜Daily Telegraph
マーク・オグデン／デイリー・テレグラフ
英高級紙で最大の発行部数を誇る『デイリー・テレグラフ』のユナイテッド番を務める花形で、アレックス・ファーガソン前監督の勇退をスクープした敏腕だ。他国のサッカー事情に通暁し、緻密かつ冷静な分析に基づいた記事で抜群の信頼を得ている。
【翻訳】
田嶋康輔