出遅れた王者マリノスにCFジュニオール・サントスがもたらした“効果”【小宮良之の日本サッカー兵法書】

カテゴリ:連載・コラム

小宮良之

2020年10月05日

0トップは世界的なスタンダードにはなっていない

シーズン途中に加入したジュニオール・サントス。移籍後13試合で7ゴールを挙げている。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

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 サッカーは90分、そして一つの大会、もしくは1シーズンという長丁場の勝負である。ミクロ的な視点は大切だが、マクロでしか判断できないこともある。一つ一つの積み重ねの連続が、勝敗を分けているのだ。

 例えば、センターフォワードの存在である。

 ボールを優勢につなげるだけなら、大きくてでかく、パワーのあるFWよりも、テクニックとスピードのあるMFを前線に置く戦いが有効とも言われる。いわゆる0トップになるが、世界的なスタンダードにはなっていない。つなぎ、崩し、攻撃は潤滑に行くかもしれないが、90分の戦いの中で0トップは弱点が見えるのだ。

 大きくてでかく、パワーのあるFWは、その存在だけで相手センターバックに脅威を与えている。技術的には雑であっても、単純なロングボールにハイジャンプで激しく競り合い、クロスに対して飛び込む。あるいはサイドに流れて、ボールを受け、ポストワークで起点を作る。前線の拠点となって、それを頼りに味方は押し上げ、0トップにはできない仕事だ。

 CBはCFとの駆け引きに疲弊する。ハイジャンプを繰り返し、体をぶつけ合い、足を使わされ、試合が進むにつれ、消耗していく。その結果、ディフェンス精度は落ちるのだ。

 攻撃側は、その時にチャンスを迎える。ラインを上げられなくなった相手に対し、パスを回し、サイドを崩し、篭絡できる。ボールをつなぐ、運ぶ技術が輝くのだ。
 
 昨シーズン王者である横浜F・マリノスは今シーズン、戦術的に研究され、守備面の拙さが出てしまい、出遅れた。しかし、柏レイソルからジュニオール・サントスというCFを補強したことによって、息を吹き返している。

 ジュニオール・サントスは、細やかなプレーができるタイプではない。しかし屈強な身体をディフェンスにぶつけ、五分五分なら自分のボールにし、驀進するインテンシティを持っている。その格闘が敵のバックラインを撓ませ、隙を作り出し、それによって攻撃が勢いを得ている。その迫力でラインを下げさせ、ワイドの選手たちも勇躍するようになった。

 ボールプレーを基調にする横浜にとっても、プレー強度の高いCFは一つの武器になる。

 しかし、ジュニオール・サントスはパワーに恵まれているがゆえに、大味なプレーも見せる。相手の警戒が強まれば、得点も思った通りには取れなくなるだろう。例えば、セレッソのような守備が組織化したチームを相手には沈黙することになった。

 やはり、90分の勝負で勝つのは簡単ではない。あまたのディテールが、そこにはある。大会、1シーズンなら、なおさらだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。
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