攻撃的な印象のスペイン・サッカーも、戦術の基本は「まず守備から」【小宮良之の日本サッカー兵法書】

カテゴリ:連載・コラム

小宮良之

2020年06月01日

バルサのようなクラブはマジョリティーではない

クリエイティブとは言えないが、ボール奪取力能力に長けたカゼミーロ(左)やサウール(右)はチームに不可欠な存在だ。(C) Getty Images

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「守りの安定が、攻撃の自由を作り出す」

 攻撃的な印象があるスペイン・サッカーだが、戦術的にはこれが原則である。バルセロナのようなクラブは、攻撃は防御なり、という逆転の発想で戦いの質を高めているが、マジョリティーではない。定石は、守備の組織づくりにある。

 サッカーはどんなレベルであれ、攻撃だけでは成立しない。相手も攻撃を仕掛けてくる。そこで守備が脆弱な場合、攻撃に転じることもできない。一つの道理がある。たとえ強力な攻撃で相手を押し込んだとしても、守備の乱れは大きく足を引っ張ることになる。たとえ、1、2試合、勝利することができたとしても、守備が整っていないチームは必然的に敗北へ向かう。

 例えばレアル・マドリーのジネディーヌ・ジダン監督はその点、抜かりがない。アンカーにカゼミーロを配置。中央を強固にすることで、ダメージを最小限にしている。

 今シーズン、躍進を見せていたヘタフェは、局面での“戦闘”に重点を置いている。各選手が1対1で負けず、激しく戦い、防御線を破らせない。プレーインテンシティーが著しく高く、相当に鍛えられているのが伝わってくる。しばしば、反則すれすれというプレーもあるほどだ。
 
 そして今シーズン、チャンピオンズ・リーグで欧州王者であるリバプールを撃破したアトレティコ・マドリーも、鉄壁のディフェンスを作り上げている。DF、MF、FWのラインの動きは緻密で力強く、いくつもの塹壕を掘って、そこから銃撃し、敵を待ち構えているかのような錯覚を受けさせる。すべてを乗り越えてきても、“本営”には守護神ヤン・オブラクが最後の牙城を守っているのだ。

 アトレティコの強みは、苛烈な攻撃を受けた後、反発できる点にあるだろう。ディエゴ・シメオネ監督が長年をかけて作り上げた練度は高く、相手のミスを見逃さない集中力と、乗じる賢さがある。90分間の勝負の中で、少しも気持ちを切らさず、どこかで逆転できる(逆に相手の反撃にも警戒)と腰を据えているのだ。

 守備の安定は、精神面でのアドバンテージにも通じるだろう。

 有名な「戦争論」の著者でプロイセンの軍人だったカール・フォン・クラウゼビッツは、軍略の基本をこう述べている。

「防御は攻撃よりも強力な戦争形式である。それは消極的な目的であるかもしれないが、防御が優位な形式である以上、それは有利であることを意味している。したがって、防御を持って始まり、攻勢を持って終わるのが、戦いのあるべき姿である」

 サッカーの戦術は、軍事的な駆け引きの派生であるとも言われるが、攻守の理論は同じだ。

 華々しい攻勢にこそ、サッカーの浪漫はある。それは「得点を多くとった方が勝ち」というルールの特性上、然るべきだろう。しかしながら、防御を怠ったチームに勝利への道が示されることはないのだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。

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