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Jリーグに問われる「プレーヤーズファースト」――鹿島が安定して強い理由を考えるべき【小宮良之の日本サッカー兵法書】

カテゴリ:連載・コラム

小宮良之

2019年08月19日

世界的な見地で言えば“異常”

過去1年だけ見ても6人もの主力を放出。それでも鹿島が大崩れしないのには理由がある。写真:滝川敏之

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「プレーヤーズファースト」

 それはJリーグ・クラブの理念の一つだ。

 しかし、それは必ず守られているのか。選手が組織の中で身を捩っている――。どんな社会でもそうだが、悩みの実像はしばしば表に出ないものだ。

 競争に勝つか、負けるか、その点はプロの世界では非情であるべきなのだろう。結果を出せない者には当然、厳しい。その過酷さと引き換えに、選手は目もくらむ成功を手に入れられる。ハイリスク、ハイリターンの世界だ。

 ただ、正常な競争原理が働いていない場面も見られる。

 例えば、Jリーグではそのシーズン、完全な主力だった選手が、クラブから非常な契約解除を言い渡されるケースがある。出場機会がない選手だったら、分からないではない。しかし主力として成績を残した選手の契約を切るなら、そのシーズンのすべてを否定することになるだろう。

「クラブの方針が変わったから」

 こうした意見はもっともらしく聞こえるが、その決定は選手第一なのか。そこに生じる違和感は、組織としてゆがみのもとだ。

 選手は、何が評価される基準なのか、を常に知りたいと考えている。そして適切に評価されたい、と何より願う。その査定が正しければ、選手は理不尽にも耐えられ、受け止められる。

 逆説すれば、基準のあやふやさがプロの集団として一番、危惧すべき点だろう。

「プレーヤーズファースト」

 その意味を、再び問うべきだ。

 そもそもJリーグでは、「GM的な仕事をできる人が圧倒的に足りない」と言われて久しい。いないわけではないが、優れた人材は不足している。Jリーグの成績は、GMの手腕と符合するところがある。
 
“Jリーグで最多タイトル”鹿島アントラーズがこれだけ安定して強い理由を、改めて考えるべきだ。

「鹿島は10年単位で、自分のプレーを見てもらった。感謝しています」

 結局、定位置は取れなかったあるプレーヤーが、クラブに感謝を口にしていた。選手は、クラブに正しく評価されていたことを感じていたのだろう。その空気が、さらに良い選手を招き入れ、成長を促している。

 クラブとして、正しい競争を起こせているのだ。

 鹿島は過去1年だけでも、植田直道、昌子源、西大伍、安部裕葵、安西幸輝、鈴木優磨という6人の主力を手放したにもかかわらず、その戦力を保っている。彼らが移籍しても、白崎凌兵、小池裕太、上田綺世、相馬勇紀という有力選手を補強し、犬飼智也、町田浩樹のような若手の台頭を促している。鹿島から世界へ飛躍した選手も多く、選手がその可能性を見出せ、その環境で自信を持ってプレーできる、というポジティブなサイクルが生まれているのだ。

 選手の人生を預かる――。

 それがクラブの責任である。容赦なく切るにしても、切るだけがプロではない。昨シーズンのオフ、J1でプレーしてきた多くの選手が“契約満了”となって、途方に暮れていた。そして同じJ1どころか、J2のどこにも受け入れ先がなく(クラブは見つけられず)、J3ですらめぼしいところがない。そんな事態がいくつも起こっていた。それは、世界的な見地で言えば、“異常”と言える。

 かかわった選手とともに歩むことで、クラブ自体もリスペクトを得られる。

 それが、プレーヤーズファーストのあるべき構造なのだろう。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。
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