勝ったとはいえ、脇の甘さは変わっていない。
実力が拮抗したJリーグだが、16位の清水が4位の川崎に勝つという結末はまったく予想できなかった。
正直に告白すると、前半15分ほどで「これは清水が大敗するだろう」と思った。選手個々の技量でも勝てない上に、布陣の噛み合わせも悪すぎたからだ。
川崎は左からレナト、大久保、小林と最前線に決定力の高いタレントを擁し、そこにトップ下の中村が絡んでくる。しかも大外からはサイドバックも果敢に攻め上がる。
支配力に優れ、幅を使って攻めてくる川崎を、清水は攻撃的な4-3-3で迎え撃った。これは分が悪い。最終ラインは3トップ+中村の4枚を抑えるだけで精一杯なのに、そこにサイドバックが絡んできたら、枚数が明らかに足りなくなるからだ。
予想は当たった。清水は横の揺さぶりから2失点を喫した。
19分の1点目はコーナーキックから福森に決められたヘッド。だが、これは守りが混乱して与えてしまったフリーキックが発端だった。左のレナトから中央の中村につながれ、切り崩されかけたところをファウルで止めるしかなかったからだ。
小林に許した44分の2点目は、まさに心配された形から。左のスペースをサイドバックの小宮山に駆け上がられ、ニアサイドを中村、小林のコンビネーションで崩された。枚数が足りない上にテクニックでも凌駕された。
それでも清水が勝ったのは、川崎の風間監督が述べたように「やってはならないミスが多すぎた」からだ。
川崎から見れば、3失点のうち2点はプレゼントしたようなものだった。
1点目の六平のゴール(19分)は、雑なクリアと軽い対応が招いたもの。終了間際、村田に許した決勝点(90分)も、中盤でのパスを引っかけられて背後を突かれた。
圧倒的に優位に立つ川崎は、それゆえに緊張感を欠いたのかミスが目立ち、65分に中村が負傷交代すると完全にリズムを失ってしまった。
清水は川崎の自滅にも乗じて逆転し、降格圏を脱した。
「救世主になる」と事あるごとに宣言し、黙々と居残りのシュート練習に励んできた村田の値千金の一発で、オレンジ色のゴール裏は狂ったようなお祭り騒ぎとなった。
それにしても、だ。守備の崩壊によって降格の危機を迎えたチームが、敵地で格上の敵に撃ち合いを挑むという構図は、正直なところ理解に苦しむ。
先制され、追いついたのも束の間、4分後に勝ち越しゴールを与えているのだ。勝ったとはいえ、脇の甘さは変わっていない。
内容よりも結果がすべての終盤戦、それでも清水はスタイルを捨てない。人の好さが滲み出る大榎監督は、前でボールを奪う攻撃的なサッカーを標榜している。それは前向きに捉えれば、王国のプライドがいまも生き続けている証だろう。
降格の危機を迎えた清水はゴトビ監督を切り、大榎にすべてを託した。外部から「再建屋」を呼ぶのではなく、栄光を知るレジェンドを登板させた。それはいまにして思えば「王国として生き残る」という意思表示だったのだろう。
Jリーグが発足して22年、かつてを思えば日本中がサッカー王国となったが、「元祖王国」はプライドを失っていない。降格を知らない4チームのひとつである清水は、なりふり構わず引き分けを狙う甲府のようにはなりたくないのだ。やろうと思ったところで、できないだろう。
王国として生きることを選んだ清水。大榎と仲間たちの行く手には、果たして何が待ち受けているのか。
取材・文:熊崎敬
正直に告白すると、前半15分ほどで「これは清水が大敗するだろう」と思った。選手個々の技量でも勝てない上に、布陣の噛み合わせも悪すぎたからだ。
川崎は左からレナト、大久保、小林と最前線に決定力の高いタレントを擁し、そこにトップ下の中村が絡んでくる。しかも大外からはサイドバックも果敢に攻め上がる。
支配力に優れ、幅を使って攻めてくる川崎を、清水は攻撃的な4-3-3で迎え撃った。これは分が悪い。最終ラインは3トップ+中村の4枚を抑えるだけで精一杯なのに、そこにサイドバックが絡んできたら、枚数が明らかに足りなくなるからだ。
予想は当たった。清水は横の揺さぶりから2失点を喫した。
19分の1点目はコーナーキックから福森に決められたヘッド。だが、これは守りが混乱して与えてしまったフリーキックが発端だった。左のレナトから中央の中村につながれ、切り崩されかけたところをファウルで止めるしかなかったからだ。
小林に許した44分の2点目は、まさに心配された形から。左のスペースをサイドバックの小宮山に駆け上がられ、ニアサイドを中村、小林のコンビネーションで崩された。枚数が足りない上にテクニックでも凌駕された。
それでも清水が勝ったのは、川崎の風間監督が述べたように「やってはならないミスが多すぎた」からだ。
川崎から見れば、3失点のうち2点はプレゼントしたようなものだった。
1点目の六平のゴール(19分)は、雑なクリアと軽い対応が招いたもの。終了間際、村田に許した決勝点(90分)も、中盤でのパスを引っかけられて背後を突かれた。
圧倒的に優位に立つ川崎は、それゆえに緊張感を欠いたのかミスが目立ち、65分に中村が負傷交代すると完全にリズムを失ってしまった。
清水は川崎の自滅にも乗じて逆転し、降格圏を脱した。
「救世主になる」と事あるごとに宣言し、黙々と居残りのシュート練習に励んできた村田の値千金の一発で、オレンジ色のゴール裏は狂ったようなお祭り騒ぎとなった。
それにしても、だ。守備の崩壊によって降格の危機を迎えたチームが、敵地で格上の敵に撃ち合いを挑むという構図は、正直なところ理解に苦しむ。
先制され、追いついたのも束の間、4分後に勝ち越しゴールを与えているのだ。勝ったとはいえ、脇の甘さは変わっていない。
内容よりも結果がすべての終盤戦、それでも清水はスタイルを捨てない。人の好さが滲み出る大榎監督は、前でボールを奪う攻撃的なサッカーを標榜している。それは前向きに捉えれば、王国のプライドがいまも生き続けている証だろう。
降格の危機を迎えた清水はゴトビ監督を切り、大榎にすべてを託した。外部から「再建屋」を呼ぶのではなく、栄光を知るレジェンドを登板させた。それはいまにして思えば「王国として生き残る」という意思表示だったのだろう。
Jリーグが発足して22年、かつてを思えば日本中がサッカー王国となったが、「元祖王国」はプライドを失っていない。降格を知らない4チームのひとつである清水は、なりふり構わず引き分けを狙う甲府のようにはなりたくないのだ。やろうと思ったところで、できないだろう。
王国として生きることを選んだ清水。大榎と仲間たちの行く手には、果たして何が待ち受けているのか。
取材・文:熊崎敬