カルチョメルカート（移籍マーケット）最終日の９月１日、イタリア各クラブの代表者が最後の商談を行なうために一堂に会したミラノの『ATAホテル・エグゼクティブ』は、まさに蜂の巣をつついたような状況だった。
 
　あちらこちらで、「あの選手をレンタルしてくれればその選手を買い取る。ボーナスを上乗せしてくれたら次に売却した時のパーセンテージを契約に入れる」といった生々しいやり取りが繰り広げられている。そこに張り込んだ我々ジャーナリストは、知り合いの代理人やスポーツディレクターをつかまえては、あの話はまとまるのか、このポジションの補強はどうするのか、と訊ねて回る。そのなかで私はずっと、下を向いて携帯電話の画面をチェックしていた。
 
　私のところには、SMS（ショートメール）からwhatsapp（インスタントメッセンジャーアプリ）まで、あらゆる経路を通じて情報やメッセージが次から次へとライブで流れ込んでくる。ある選手などは、自分が明日からどこのチームでプレーするのか、私に訊ねてきたほどだ。新しい動きがあるたびに、一緒に仕事をしているスタッフにそれを伝えて裏を取るよう指示を出すという繰り返しだった。
 
　この日の出来事で記憶に残るのは、ジョナタン・ビアビアニー（パルマ）のミラン移籍が土壇場で飛んだことだ。メディカルチェックを終え、ミランのマフラーを首にかけた写真がTwitterから流れたにもかかわらず、交換要員（ミランのDFクリスティアン・ザッカルド）が移籍を拒否したために話が白紙になった。
 
　しかしその後、セリエA登録期限までの３、４時間にも山のような出来事があった。ミランはジャコモ・ボナベントゥーラ（アタランタ）をインテルから横取りし、フレディ・グアリンはバレンシアに行かずインテルに残留。ハビエル・サビオラがオリンピアコスからヴェローナ入りを決めた。
 
　タイムリミットの23時になってもメルカートは終わらない。バーリからパレルモに移籍が決まったジョアン・シウバの登録申請メールがレーガ・カルチョ（イタリア・リーグ機構）に送信されたのは23時00分33秒。レーガは当初、タイムリミットを超えたとして登録を受け付けなかったが、パレルモが「23時00分59秒までは有効」という異議申し立てをして受理され、晴れて移籍が成立した。
 
　一方で、アレハンドロ・ゴンサレス（ヴェローナ）のカリアリ移籍、アルバロ・ゴンサレス（ラツィオ）のパルマ移籍は、それぞれ３分のタイムオーバーで成立せず。カルチョメルカートの最終日はいつも泣き笑いである。
 
【翻訳】
片野道郎
 
翻訳者からのごあいさつ
　イタリアのスポーツ専門局『SkySport』を舞台に活躍するジャンルカ・ディ・マルツィオは、移籍専門記者という新たなジャンルを独力で切り開いた草分けにして、他をまったく寄せ付けないトップランナーです。
 
　イタリア国内ではすでに数年前から超メジャーな存在でしたが、2013年１月にジョゼップ・グアルディオラ監督のバイエルン入りという大スクープをものにして、一躍ヨーロッパ中でその名を知られるようになりました。その後も、ウィリアン（当時シャフタール・ドネツク）がトッテナムからチェルシーに寝返った顛末など、イタリアにいながらワールドワイドな移籍情報をいくつもスクープしています。
 
　セリエAから下部リーグまで各クラブの会長やスポーツディレクターはもちろん、代理人からスカウトまで膨大な関係者と緊密なネットワークを持ち（iPhoneのアドレス帳には3000人以上のコンタクトが入っています）、他の記者には絶対入手できないディープな情報をキャッチ。素晴らしいのは、しっかり裏が取れるまでは決して情報を出さないところです。
 
　ご存じの通り、世界中を飛び交っている移籍関連ニュースの大半は、誰かの願望や思惑に基づくただの噂でありそれ以上ではありませんが、ディ・マルツィオが発信するニュースは、すべて彼自身のプライドがかかったガチネタであり、ハズレはほぼ皆無と言っても過言ではありません。移籍ネタに関しては、どんなにありそうな話でもディ・マルツィオが書くまでは嘘か本当かわからない、どんなにあり得ない話でもディ・マルツィオが書いたら本当、というのが、もはやこの業界の常識になっているくらいです。
 
　ツイッターのフォロワーは全世界で約30万人。日本では13年７月から『ワールドサッカーダイジェスト』誌に連載コラムを寄稿しています。先月、この連載を休載した時には、日本のフォロワーからいくつも問い合わせのリプライが飛んで来たほどの人気です。
 
　そんなディ・マルツィオのオフィシャルサイト『gianlucadimarzio.com』から、移籍関連を中心とする最新ニュースを毎日厳選してお伝えするのがこのコーナー。サプライズはあっても「ガセ」はありませんから、安心してお読みください。（片野道郎）