2018年12月31日、NACK５スタジアム大宮で第97回高校サッカー選手権の１回戦が行なわれ、福島県代表の尚志と鹿児島県代表の神村学園が対戦した。試合は80分では決着がつかず、PK戦を５-３で制した尚志が勝利し、２回戦に駒を進めた。

　拮抗した試合を決めたのは、交代出場した尚志のふたりの選手だった。

　1人目は、47分に投入された伊藤綾汰だ。お互いが堅守を見せ、膠着した試合状態を打開するために監督から声をかけられた。「後半の早いうちに行くぞと声をかけられていた。まずは自分が１点取ってやろうと思っていた」（伊藤）と気合十分でピッチに入った。

　その効果はすぐに現われた。前半35分に投入されていた加瀬直輝とともに、伊藤が攻撃にリズムを生み、徐々に敵陣に攻め込む機会が増える。そして後半15分、尚志が獲得した右CKをGK坂ノ下陸が弾こうとして、こぼれたボールを伊藤が左足のつま先で流し込んで先制点を挙げる。

　しかし、試合はこれで終わらなかった。先制点で勢いに乗る尚志に、神村学園はひたすら耐える時間が続く。そんななか、数少ないチャンスを生かして後半39分、ペナルティエリア外のゴール正面でFKを獲得。これを隈元聖也が直接ゴールに蹴り込み、土壇場で１-１に持ち込みPK戦へと望みをつなげる。

　直後の後半アディッショナルタイム、尚志の仲村浩二監督はGKの交代を指示。先発の森本に変えて２年生GKの鈴木康洋をピッチに送った。間もなくタイムアップを迎え、PK戦に移行した勝負の場で、鈴木が指揮官の信頼に応える。神村学園の２番手で登場した隈元のPKを右手で弾き飛ばしたのだ。

　PKはこの１本が雌雄を決し、５-３で尚志が２回戦に駒を進めた。

　聞けば、先制点を決めた伊藤は、12月に入ってから盲腸を患って５日間ほど入院生活を送っており、10日から練習に復帰したばかり。コンディションを考えての起用となったようだが「ウチは後半からエンジンがかかるパターンもある」（仲村監督）と選手層の厚さに胸を張った。また、鈴木の投入は「FKで失点した瞬間にすぐに（鈴木を）入れようと思いました。練習でも選手たちが何人も止められているくらいPK戦が得意な選手なので」（仲村監督）と迷いはなかった。

　指揮官からの絶大なる信頼に選手たちが見事に応えた勝利となった。２回戦の相手は強豪、東福岡となる。「去年は負けているので、絶対に勝ちたい」と仲村監督以下、選手たちも声を揃えた。リベンジの舞台は１月２日、浦和駒場スタジアムとなる。