「侮れないギリシャの不気味」 サッカーダイジェスト特派としてEURO2004優勝を見届けた元編集長が【証言】

カテゴリ:日本代表

吉田治良

2014年06月17日

バロンドール受賞者たちが率いる強豪国を相次いで血祭りに。

徹底した堅守速攻で世紀の番狂わせを演じ、EURO2004を制したギリシャ。この成功体験から彼らは「確信」を得たのだ。 (C) Getty Images

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 弱者が強者を倒すストーリーは、ほとんどの場合が痛快このうえないものだが、なかには例外もある。
 
 今から10年前のEURO2004で、あろうことかホスト国のポルトガルを、開幕戦と決勝戦の二度に渡って倒してしまったギリシャは、その最たる例だろう。彼らは言うならば、「歓迎されないチャンピオン」だった。
 
 当時、『ワールドサッカーダイジェスト』の編集長だった私は、ギリシャの優勝が決まった瞬間、記者席で隣に座っていた、これまた当時の『週刊サッカーダイジェスト』編集長に、半笑いでこう問いかけたのを覚えている。
 
「なあ、どうするよ?」
 聞かれたほうも半笑いだ。
「うーん……、まいったね」
 
 決勝戦終了から1時間以内に我々が編集部に送るべき原稿は、「ポルトガル優勝」で予定稿を組んでいた。まさか格で明らかに上回る開催国が、同じ相手に二度もしくじるわけがないと踏んでいたからだ。57分にギリシャFWアンゲロス・ハリステアスがCKから先制ヘッドを沈めた時も、それがこの日唯一のゴールになるとは思わなかった。
 
 だが結局、マニシェ、もしくはルイス・フィーゴを予定していたMVP原稿は、にっくきハリステアスに差し替える羽目になった。華のない選手を華やかに書き立てなくてはならない原稿ほど苦痛を伴うものはない。
 
 リスボンのルス・スタジアムの記者席から少し離れたプレスセンターまで、打ち上げ花火の炸裂音と、数は少なくともオペラ歌手ばりの声量を誇ったギリシャサポーターの歌声を背中で聞きながら、憂鬱な気分で移動したことを思い出す。
 
 もちろん、ギリシャの優勝を歓迎しなかったのは、“仕事の都合”だけが理由ではない。もし、そのサッカーに新鮮味や疾走感、あるいは未来への希望が詰まっていれば、たとえ予定調和を必要以上に乱したとしても、万人が彼らを称えただろう。
 
 しかし、ギリシャがあの大会で見せたのは、靴底にこっそり小石を忍ばせるような、ただただ相手を不快にさせるサッカーだった。
 
 ドイツ人の老将、オットー・レーハーゲルが持ち込んだ規律と組織の下、彼らは執拗なマンツーマンディフェンスから愚直にカウンターを繰り出し、フィーゴのポルトガルだけでなく、ジネディーヌ・ジダンのフランス、パベル・ネドベドのチェコと、歴代バロンドール受賞者たちが率いる強豪国を相次いで血祭りに上げたのだ。
 
 画面に出てきた瞬間、そのうち主役に倒されると分かるいつもの悪役が、なぜか最後まで生き残ってしまったような不自然さ。あるいはキジ程度の脇役が、桃太郎を差し置いて鬼退治を完結させてしまったような拍子抜け感──。地元ポルトガルの優勝で大団円を迎えるはずだった大会は、絶滅寸前の古典的スタイルで頂点にまで上り詰めた伏兵ギリシャによって、水を差された印象が強い。
 
 ただし、それまでメジャートーナメントで1勝も挙げたことのなかった弱小国ギリシャに、「堅守速攻」という確固たる伝統が息づいたのも、まさにあの瞬間からだったと思う。どんなにつまらないと揶揄されようとも、彼らはヒールを貫く強さを、あのEUROで身に付け、信念としたのである。なぜなら、それが勝利への最短コースと確信できるだけの、抱えきれないほどの成功体験を得たからだ。

ギリシャが10年前に得たような確信を、果たして日本代表は…。
 
 あれから10年が過ぎた。
 
 さすがに当時のマンツーマンディフェンスは消えたが、レーハーゲル前監督の意を汲むフェルナンド・サントス監督の下、強烈なプレスを基盤とした堅守速攻スタイルは揺らいでいない。しかもチームには、EURO2004の優勝メンバーであるゲオルギオス・カラグーニスとコンスタンティノス・カツラニスの両ベテランが、当時の生き証人よろしくいまなお健在なのだ。

決して一筋縄ではいかない狡猾なヒールが、ギリシャ代表だ。日本代表は覚悟して立ち向かわなければならないだろう。 (C) Getty Images

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 欧州のトップクラブで活躍するタレントを多数擁するコートジボワールやコロンビアとは違い、特筆すべきスターが見当たらないギリシャは、もしかするとグループCの対戦相手の中で、最も与しやすいと考えられているのかもしれない。
 
 だが、サッカーの流行り廃りとは関係のない、それでいて勝利には絶対不可欠な要素──規律、団結心、組織力──を、しっかりと、あるいは日本以上に携えているのがギリシャであると、私は思っている。初戦でコロンビアに完敗を喫したとはいえ、あの一戦だけですべてを判断するのは早計だ。
 
 果たしてアルベルト・ザッケローニに率いられた日本代表は、ギリシャが10年前に得たような確信を、彼らが呪文のように唱える「自分たちのサッカー」に持ち合わせているのだろうか。苦しい時に立ち返るべきスタイルを手に入れたと、本当に胸を張って言えるのだろうか。互いに負けが許されない状況ではなおさら、そうしたファクターが勝敗に大きく影響を及ぼすような気がしてならない。
 
 いずれにしても、日本代表がグループリーグの第2戦で戦う相手は、靴底の小石を取ろうと片足で立った瞬間、きれいに足払いを掛けてくるような狡猾なヒールであると、十分に覚悟しておくべきだ。

 60分、途中交代を命じられたコスチーニャが、手渡された控え選手用のビブスを腹立ちまぎれに投げ飛ばす。ロスタイム、ジョルジ・アンドラーデのヘッドがクロスバーを越えた時、それまで檻に入れられた猛獣のようにベンチ前をせわしなく往復していたフェリポン(ルイス・フェリペ・スコラーリ監督)の動きがピタリと止まった。試合終了後、田舎娘のような赤い頬っぺたをした、まだあどけないクリスチアーノ・ロナウドが人目をはばからず涙に暮れていた。

 10年前のポルトガルは、まんまとギリシャの罠にはまり、気付いた時には芝生の上に転がされ、呆然と空を見上げていた。

ブラジルの地で、日本代表に同じ悲劇が起こらぬことを祈っている。
 
文:吉田治良
『ワールドサッカーダイジェスト』、『週刊サッカーダイジェスト』両誌の編集長を歴任。ワールドカップは1998年フランス、2002年日韓の2大会、EURO(欧州選手権)は00年オランダ/ベルギー、04年ポルトガル、08年オーストリア/スイスの3大会を取材した。現在は『ダンクシュート』編集長を務める。

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