通いたくなるかと聞かれれば、疑問符がつく。
現地時間3月6日、私は「ロンドン・スタジアム」と呼称されるウェストハムの本拠地で、チェルシーとのロンドン・ダービーを取材した。
2位に10ポイント差をつけて、プレミアリーグのトップを独走するチェルシーとのロンドン・ダービーならば、イングランドでも指折りの情熱(時折、その熱意があらぬ方向に向くのだが……)を持つウェストハム・サポーターが興味深い反応を示すと期待したからだ。
しかし、実際はそんなことはなかった。1-2で敗れたという結果がそうさせたのかもしれないが、サポーターたちが落ち着いていたのには違う理由があったように思う。
新本拠地ロンドン・スタジアムで、最初のホームゲームが行なわれてから約7か月。ピッチとスタンドと遠さという問題を、いまだファンは受け入れられていないようだ。その距離は、親しんできたアプトン・パーク(ウェストハムが1904年から昨夏まで使用していたスタジアム)とは雲泥の差。たしかに施設は最新鋭になった。しかし、スタジアム移転はサポーターからすれば良いことばかりではない。
私自身、アプトン・パークには何年も通い詰めた。理由は簡単だ。そこで仲間に会うため、試合に賭けるため、最高の一杯を飲むためである。
しかし、とくに優しい説明もなく、勝手の分からないロンドン・スタジアムに通いたくなるかと聞かれれば、疑問符がつく。これは私を含めた全てのウェストハム・サポーターが思っていることだろう。
アプトン・パークでは、選手の声を聴き、プレーの激しさを感じられ、時には怒鳴りつけることだってできた。それによって会場の雰囲気は高まり、選手の後押しになったことは言うまでもない。しかし、チェルシー戦はその独特の緊張感がまったく感じられなかった。
挙句の果てには、チェルシー・サポーターから新スタジアムに移転したことを揶揄するチャントを歌われる始末……。それがあながち間違っていないところが悔しいところでもある。
さらにスタジアムのアナウンサーも変わっていた。面白おかしく、サポーターが愛したアナウンサーではなく、どこか企業的で、ファンに対してよそよそしい声がスタジアムには響いていた。
全ては時間が解決してくれる――。新居に移った時というものは、そういう考えが沸き、気づいた時には古い住まいのことなど忘れてしまうものだ。しかし、ロンドン・スタジアムから試合を眺めていて、そういった感情は芽生えなかった。
もし、読者の皆さんがロンドン・スタジアムに行く機会があったら、ぜひ足を運んでみてほしい。きっと違和感を覚えるはずだ。
文:スティーブ・マッケンジー
スティーブ・マッケンジー (STEVE MACKENZIE)
profile/1968年6月7日にロンドンに生まれる。ウェストハムとサウサンプトンのユースでのプレー経験があり、とりわけウェストハムへの思い入れが強く、ユース時代からサポーターになった。また、スコットランド代表のファンでもある。大学時代はサッカーの奨学生として米国の大学で学び、1989年のNCAA(全米大学体育協会)主催の大会で優勝に輝く。
2位に10ポイント差をつけて、プレミアリーグのトップを独走するチェルシーとのロンドン・ダービーならば、イングランドでも指折りの情熱(時折、その熱意があらぬ方向に向くのだが……)を持つウェストハム・サポーターが興味深い反応を示すと期待したからだ。
しかし、実際はそんなことはなかった。1-2で敗れたという結果がそうさせたのかもしれないが、サポーターたちが落ち着いていたのには違う理由があったように思う。
新本拠地ロンドン・スタジアムで、最初のホームゲームが行なわれてから約7か月。ピッチとスタンドと遠さという問題を、いまだファンは受け入れられていないようだ。その距離は、親しんできたアプトン・パーク(ウェストハムが1904年から昨夏まで使用していたスタジアム)とは雲泥の差。たしかに施設は最新鋭になった。しかし、スタジアム移転はサポーターからすれば良いことばかりではない。
私自身、アプトン・パークには何年も通い詰めた。理由は簡単だ。そこで仲間に会うため、試合に賭けるため、最高の一杯を飲むためである。
しかし、とくに優しい説明もなく、勝手の分からないロンドン・スタジアムに通いたくなるかと聞かれれば、疑問符がつく。これは私を含めた全てのウェストハム・サポーターが思っていることだろう。
アプトン・パークでは、選手の声を聴き、プレーの激しさを感じられ、時には怒鳴りつけることだってできた。それによって会場の雰囲気は高まり、選手の後押しになったことは言うまでもない。しかし、チェルシー戦はその独特の緊張感がまったく感じられなかった。
挙句の果てには、チェルシー・サポーターから新スタジアムに移転したことを揶揄するチャントを歌われる始末……。それがあながち間違っていないところが悔しいところでもある。
さらにスタジアムのアナウンサーも変わっていた。面白おかしく、サポーターが愛したアナウンサーではなく、どこか企業的で、ファンに対してよそよそしい声がスタジアムには響いていた。
全ては時間が解決してくれる――。新居に移った時というものは、そういう考えが沸き、気づいた時には古い住まいのことなど忘れてしまうものだ。しかし、ロンドン・スタジアムから試合を眺めていて、そういった感情は芽生えなかった。
もし、読者の皆さんがロンドン・スタジアムに行く機会があったら、ぜひ足を運んでみてほしい。きっと違和感を覚えるはずだ。
文:スティーブ・マッケンジー
スティーブ・マッケンジー (STEVE MACKENZIE)
profile/1968年6月7日にロンドンに生まれる。ウェストハムとサウサンプトンのユースでのプレー経験があり、とりわけウェストハムへの思い入れが強く、ユース時代からサポーターになった。また、スコットランド代表のファンでもある。大学時代はサッカーの奨学生として米国の大学で学び、1989年のNCAA(全米大学体育協会)主催の大会で優勝に輝く。