Ｊリーグは来季から分配金を増額し、さらに外国人選手の登録枠も拡大する。これらの〝変革〞は、移籍マーケットにどのような影響を与えるのか。国内外の事情に精通するエージェントの田邊伸明氏に話を訊いた。

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　外国人選手の登録は、「５」枠に拡大されました。大きな変更点のひとつが、国籍の制限解除。「ＡＦＣ枠」 （アジアサッカー連盟に加盟している46の国・地域の国籍を持っている選手が対象）と「Ｊリーグ提携国枠」 が取り払われたことで、来季からは例えばブラジル人選手を５人保有できるようになるわけです。ベンチ入り・出場人数こそ「３人＋１（ＡＦＣ枠）」で据え置きですが、変更後は提携国枠国籍選手を外国籍扱いしないので、日本人選手の居場所が狭くなる可能性はあります。
　
　その意味で、日本人選手にとって今回の登録枠拡大は喜ばしくないかもしれません。異国からの強力なライバルが増えれば増えるほど、出番は少なくなる。助っ人率が高いＦＷは特にそうでしょう。ただ、チーム内の競争が活性化すれば日本人選手のレベルアップにつながる側面もあります。トータル的に考えれば、決してマイナスではないと思います。
　
　もっとも、分配金が増額され、登録枠も拡大したから大物外国人を獲得できるかというと、事はそう簡単ではありません。たしかに、大物を連れてくるチャンスが仲介人に生まれると思いますが、有名だったらＯＫではなく、やはり性格や人間性も大事。その選手が本当に獲得したチームにフィットできるか、日本サッカーで活躍できる資質を持っているか、我々は見極めなければならない。
　
　逆に、日本が彼らにとって、「魅力的なリーグ」であることも必要です。例えば、タイは急激に国内リーグが成長し、ヨーロッパや南米出身の選手も移籍するようになりました。 今や、Ｊリーグのレギュラークラスや現役日本代表へのオファーを検討しているほどです。それでも、やはりリーグのレベルの違いや生活環境・家族の問題が伴い、日本への大物移籍は簡単には実現しないのが実情なのです。
　
　そしてもうひとつ大きな〝弊害〞は、「シーズン制」の違いです。日本が春に開幕して秋に終幕する「春秋制（２・３月～11月）」に対し、ヨーロッパを中心とした主要リーグは秋に開幕して春に終幕する「秋春制（８月～翌５月）」。シーズンが逆転しているため、契約の残っている選手に移籍金を支払うか、クラブに属していない選手を狙うしかない。
　
　あるいは、海外のシーズンが終わった段階、つまりは日本のシーズン中にフリートランスファーで獲得するかですが、こちらは約半年を棒に振るくらいの覚悟がいります。こと外国人選手の獲得においては、すべての条件をクリアするには「シーズン移行」を視野に入れなければなりません。ただし、これに関してはＪリーグと日本協会にそれぞれの意向があるので、今後綿密な議論を交わしていく必要があると思います。


解説●田邊伸明（日本サッカー協会登録仲介人）
PROFILE　たなべ・のぶあき／1966年、東京都生まれ。ジェブエンターテイメント代表取締役。稲本潤一（札幌）、大久保嘉人（川崎）、槙野智章（浦和）、森脇良太（浦和）、浅野拓磨（シュツットガルト）、橋本拳人（FC東京）らと契約する。日本エージェント界の草分け的人物である。