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3つのポジションを自在にこなす。元JリーグMVPがイングランドで躍動。原動力は「試合に出たい」「もっと勝ちたい」という強い思い【現地発】

カテゴリ:海外日本人

田嶋コウスケ

2025年12月13日

イタリア代表DFデスティニー・ウドギーを彷彿

バーミンガムで奮闘する岩田。自慢のユーティリティ性を遺憾なく発揮している。(C)Getty Images

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 バーミンガムの岩田智輝が、持ち味の「万能性」をいかんなく発揮した。

 12月9日に行なわれたチャンピオンシップ(イングランド2部)のQPR対バーミンガム戦。先発出場を続けている岩田は、この日もスタメンに名を連ねた。ポジションは4-2-3-1のセントラルMF。右SBに故障者が重なった10月以降、岩田は同ポジションでの出場が多かったが、QPR戦では本職のセントラルMFでスタートした。

 試合序盤から際立っていたのは、岩田の「積極的なプレー」と「豊富な運動量」だった。ピッチを精力的に走り、中盤の広いエリアを余すことなくカバーした。

「QPRは前線の2人が強烈。そこに入ったセカンドボールを拾うのが、ボランチとしてこの試合の大きな仕事でした」と岩田は言う。中盤の低い位置でボール回収に走りつつ、18分に自ら前線の高い位置まで走り、攻撃にもアクセントをつけようとした。足を止めることなく動き回るプレーぶりから、後半まで体力が持つのかと少し心配になったほどだ。

 しかしそんな懸念は、すぐに吹き飛んだ。

 バーミンガムは、後半開始時にドイツ人FWマーヴィン・ドゥクシュに代え、古橋亨梧を投入。もうひとつの戦術変更が、岩田のプレー位置を右SBに移したことだった。右SBに入った岩田は、後半から運動量のギアをもう一段階上げたのである。

 この戦術変更により、チームの攻撃は前半よりスムーズになった。

 バーミンガムがボールを持つと、岩田は攻撃に加わる。しかしタッチライン際をアップダウンする従来通りのSBの攻撃参加ではない。時にはトップ下の位置、さらには前線まで顔を出す。神出鬼没の動きで、岩田は精力的にボールに関与した。そして守備に転じれば、右SBの位置までしっかりと戻り、QPRの左MF斉藤光毅と激しいマッチアップを繰り広げた。
 
 そのプレーぶりは、トッテナムに所属するイタリア代表DFデスティニー・ウドギーを彷彿とさせた。昨季までトッテナムを率いたアンジェ・ポステコグルー監督のもとで、ウドギーは「偽SB」の役割を担い、変幻自在な攻撃参加で前線に厚みを加えた。岩田のプレーは、ウドギーに重なって見えた。

 ただ、これだけで終わらないのが岩田の凄さだった。1点を追いかける展開で迎えた82分から、今度はCBとしてプレーした。バーミンガムはCBの選手を下げ、代わりにFWを投入。すると、パス供給に長ける岩田をCBに配置したのである。

 攻撃の比重を高めたチームは同点に追いついたが、試合終了間際の90+6分に痛恨の逆転ゴールを奪われ、最終的に1-2で黒星を喫した。

 それでも、岩田のパフォーマンスは特筆に値した。セントラルMF→右SB→CBと、1試合の中で3つのポジションを自在にこなし、「戦術変更」と「監督の要望」に見事に応えた格好だ。監督としても、これほど頼りになる選手はいないだろう。

 試合後、岩田にこう尋ねてみた。「今日は3つのポジションをこなしました。ご自身の中でポジション変更の切り替えは、どのように行なっているのですか」と。すると岩田は「プレー、どうでしたか?」と逆質問。こちらが「凄いなと思って見ていました。イングランド全体を見ても、1試合で3つのポジションをこなす選手はあまり見たことがないです」と返すと、岩田はこう答えた。

「そのポジションに入る時に、自分の中で『役割』をしっかり整理してから入ってます。最近はずっとサイドバックでの出場が多かったのですが、今回は急遽ボランチでの出場になった。でも、試合前にしっかり整理していれば、別にそんなに焦ることなくプレーできます」

 岩田が横浜F・マリノスで「Jリーグ最優秀選手賞」を獲得したのが2022年。当時も本職のセントラルMFとしてプレーしつつ、SBやCBでも出場し、そのユーティリティ性を存分に発揮した。このシーズンはチームのリーグ優勝に貢献し、自身はベストイレブンにも選ばれている。

 しかし、22年12月にレンタル移籍で加入し、約半年後に完全移籍したセルティックでは不遇の時を過ごした。在籍1年半でレギュラーの座を掴めず、24年8月に当時イングランド3部にいたバーミンガムに籍を移した。新天地ではレギュラーとしてフル稼働し、昨シーズンの2部昇格に大きく貢献した。
 
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