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【連載】月刊マスコット批評 最終回「ヴァン太」――ゆるキャラとマスコットとの危うい境界線

カテゴリ:Jリーグ

宇都宮徹壱

2016年08月16日

ヴァンラーレ八戸がマスコットのモチーフにしたのは…。

ヴァンラーレ八戸のマスコット「ヴァン太」。そのモチーフは地元で有名な……。写真:宇都宮徹壱

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ヴァン太(ヴァンラーレ八戸)
 
■ヴァン太の評価(5段階)
 
・愛され度:3.5
・ご当地度:5.0
・パーソナリティ:2.5
・オリジナリティ:5.0
・ストーリー性:2.5
・発展性:4.0
 
 毎月、国内外のさまざまなマスコットを俎上に載せてきた当連載も、今回で最終回となった。最後にどのマスコットを取り上げようか。あれこれ迷ったのだが、最近のJクラブのマスコットが抱える3つの課題をあぶり出す「問題作」を、あえて取り上げることにしたい。
 
 3つの課題とは、すなわち「オリジナリティ」「ご当地感」「ゆるキャラとの差別化」。そして今回取り上げる「問題作」が、JFLに所属するヴァンラーレ八戸のマスコット『ヴァン太』である。
 
 J3が創設されて3年。Jクラブの数も一気に50を超え、最近ではJ3やJFL以下のクラブも「ウチでもそろそろマスコットを」という話をあちこちで耳にするようになった。それはそれで歓迎すべきことだが、しばし立ち止まって考えてほしいことがある。
 
 例えば、このケース。昨年11月23日に長野が『ライオー』を、今年1月30日に山口が『レノ丸』を発表した(山口はのちに公募で名称を決定)。どちらもモチーフはライオン。モチーフが被る例は、確かに過去にもあったが(FC東京と徳島はいずれもタヌキ)、長い目で見れば決して得策とは思えない。
 
 あくまで結果論ではあるが、このバッティングは十分に避けられたと私は考えている。なぜなら長野の前身は『長野エルザ』というクラブ名であり、エンブレムにも獅子が描かれているからだ。
 
 いずれ長野がライオンのマスコットを出してくるのは明白であり、そこを山口も考慮すべきではなかったか(個人的には山口市の『白狐の湯』に因んで白キツネが良かったと思うのだが、これは余談)。もっとも、これだけJクラブが増えてくれば、こうしたモチーフのバッティングは今後も十分に起こり得る。マスコットのオリジナルティをいかに担保していくか、今後も新興クラブは頭を悩ませることになりそうだ。
 
 そうした中、突き抜けた「ご当地感」でマスコットのオリジナリティを担保にしたのが、JFL所属のヴァンラーレ八戸のマスコット、ヴァン太である。そのモチーフは、何とイカ。軟体動物門頭足綱十腕形上目の、あのイカである。実は八戸港は、イカの水揚げが日本一。海外産のアカイカをはじめ、夏場のスルメイカや冬場のヤリイカなど、年間をとおしてさまざまなイカが水揚げされる。私も取材で八戸を訪れた際、たびたび活イカを食したが、どれも絶品であった。
 
 にしても、実に思い切ったチョイスだったと思う。哺乳類でも鳥類でも昆虫でもなく、あえて軟体動物。「八戸といえばイカ」という一点突破でオリジナリティとご当地感を獲得したことは、特筆すべき事例であるといえよう。
 
 そんな「マスコット界の風雲児」の予感を漂わせるヴァン太だが、一方で懸念されるのが「ゆるキャラ」との境界線が曖昧であることだ。オリジナリティを重視するがゆえに、ご当地感が先鋭化されたのは良いとして、そこでデザインやパーソナリティや発展性に甘さがあれば、すぐさま「ゆるキャラ」の烙印を押されかねない。
 
 かねてより主張していることだが「マスコットは、ゆるキャラではない」。綿密にデザインとパーソナリティが設計され、時代に左右されることなくクラブとサポーターに寄り添ってゆく存在──それがマスコットである。一過性の話題性やウケ狙いで消費されるゆるキャラとは、そこが決定的に異なることを、連載を終えるにあたって改めて強調しておきたい。

宇都宮徹壱/うつのみや・てついち 1966年、東京都生まれ。97年より国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。近著に『フットボール百景』(東邦出版)。自称、マスコット評論家。公式メールマガジン『徹マガ』。http://tetsumaga.com/
 
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