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【連載】月刊マスコット批評vol.13「スーパー・ビクトール」――“大きすぎる少年”への違和感

カテゴリ:Jリーグ

宇都宮徹壱

2016年07月14日

ふたつの残念な点が…。

幕を閉じたEURO2016の公式マスコットだったスーパー・ビクトール。筆者は、ルーマニア対アルバニア戦の会場でその姿を目にした。写真:宇都宮徹壱

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スーパー・ビクトール(ユーロ2016)
 
■スーパー・ビクトールの評価(5段階)
 
・愛され度:3.0
・ご当地度:3.0
・パーソナリティ:2.5
・オリジナリティ:3.0
・ストーリー性:3.5
・発展性:3.0
 
 久々に海外のマスコットを取り上げることにしたい。7月10日にポルトガルの初戴冠で幕を閉じた、EURO2016。大会マスコットは少年の姿をした、スーパー・ビクトールである(「スーパー・ビクター」とする表記も散見されるが、ここはフランス風に「ビクトール」で通す)。
 
 スーパー・ビクトールと出会えたのは、ルーマニア対アルバニアの試合が行なわれたスタッド・ドゥ・リヨン。チケット入場だった私は、カメラを持ち込めなかったため、写真はスマートフォンで撮影した。ちょうど入場ゲート付近でビクトールを見つけたので、スマートフォンを向けたら、係員が気を利かせたつもりだったのだろう。
 
「ツーショットで映りたいんでしょ? 撮ってあげますよ」と言わんばかりに、そやつは私のスマートフォンを奪い取ろうとする。ええい、触るな! 俺はこいつを単体で撮りたいんだ! 邪魔するな!──というわけで、無事にユーロのマスコットをコレクションに加えることができた次第。
 
 ここで、ユーロのマスコットの歴史を簡単に振り返っておきたい。ユーロがスタートしたのは1960年だが、マスコットが初めてお目見えしたのは、8チームでのセントラル開催となった80年のイタリア大会から。この時は『ピノキオ』という木製の人形がマスコットとなっている。
 
 以降、84年フランス大会は『ペノ』(ニワトリ)、96年イングランド大会は『ゴーリアス』(ライオン)といった動物路線が続く。流れが変わったのが2004年のポルトガル大会から。『キーナス』という、ポルトガル代表のユニを着たわんぱく少年がマスコットに選ばれ、共催となった08年大会(スイスとオーストリア)では『トリックス&フリックス』、12年大会(ポーランドとウクライナ)では『スラヴェク&スラヴコ』と、2大会連続で少年ふたり組のマスコットとなった。
 
 今回のビクトールは、フランスの単独開催ということで、マスコットは一体。ただし、またしても少年である。なるほど2次元で見る分には、そこそこ可愛らしい造形である。ただし、少年というモチーフは、はっきりいって失敗だったと私は思っている。4大会連続で少年というのは、いかにもマンネリに感じられるというのも確かにあるが、理由はそれだけではない。
 
 マンネリ以上に違和感を覚えたのは、3Dになった時のサイズである。リヨンで出会ったビクトールは、身長180センチの私よりもデカかった。これでは可愛さの微塵も感じられない。川崎のカブレラのように、着ぐるみで「小ささ」を表現しようとする工夫やアイデアというものが、残念ながら海外のマスコットには決定的に欠如している。

  もうひとつ残念に思ったのが、ビクトールの造形が明らかに「白人の少年」だったことだ。40年前のマスコットだったら、これでも構わなかったと思う。だが今のフランスは、さまざまなルーツを持つ国民が共存する多民族国家(それはこの四半世紀のフランス代表を見れば明らかだ)。その一方で、昨年に相次いだテロに象徴されるように、この多様性に満ちた社会には深い亀裂が生じている。

 ならば、ことさら「白人の少年」にこだわるのではなく、よりフランスらしいモチーフをチョイスすべきではなかったか。84年のユーロや98年のワールドカップ(フーティックス)に続く、21世紀のニワトリのマスコットを個人的には見てみたかった。
 
宇都宮徹壱/うつのみや・てついち 1966年、東京都生まれ。97年より国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。近著に『フットボール百景』(東邦出版)。自称、マスコット評論家。公式メールマガジン『徹マガ』。http://tetsumaga.com/
 
 

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