「えっ、なぜ？　キッカーに？」

　2025年６月28日に味の素スタジアムで開催された横浜FC戦、FC東京は１−１で迎えた後半のアディショナルタイムにPKのチャンスを得た。相手のファウルを誘ってそのPKを獲得した長倉幹樹がキッカーを担うだろうと思いきや、主審から受け取ったボールをPKスポットに置いたのは森重真人だった。

　GKの野澤大志ブランドンも「ここで森重か」と思ったという。事前にキッカーが決まっていたわけではなく、森重がキッカーを務めることになった。

「誰も蹴らなかったので。（松橋力蔵）監督は『（長倉）モトキ、モトキ』って言っていたらしいですが、『モリゲ』って聞こえて俺かなと。勘違いだったみたいです（笑）」（森重）

　勘違いだったかもしれないが、審判からボールを受け取った森重は確信というか、覚悟を決めた表情をしていた。

「苦しい状況下でチームに貢献したかったので。ゴール裏にファン・サポーターがいたので、そこを目掛けて蹴れば入るかなと。いろんな人たちの気持ちが乗ったゴールでした」

　今季は怪我もあってここまで満足した働きをしていない。チームのために何かできるとしたら「ここだと」（森重）。「外したら外したで仕方ないし、開き直って蹴れました」と38歳のベテランDFは振り返った。
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　コースを決めず、思い切って蹴ったボールは見事にゴールネットを揺さぶった(90 ＋13分の劇的弾）。実はキックオフ前、森重はJ１通算500試合出場達成を記念して、お子さん３人から花束をもらっている。特別な試合で、子どもたちに最高の姿を見せることができた。

「子供たちはサッカーをやってくれていて、FC東京を好きでいてくれていて。サッカーをやるのも見るのも楽しんでいるなと。そこでサッカー選手として、父親として良い姿を見せられたと思います」

　この試合でJ１通算502試合出場となり、J１通算出場ランキングで単独10位となった。そんなメモリアルゲームで主役級の活躍を見せるとは天晴れである。野澤の言葉──「さすがだな。役者だな」が印象深かった。

取材・文●白鳥和洋（サッカーダイジェストTV編集長）

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