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皇帝アドリアーノの引退試合にスターが集結。75分に亡き父親がスクリーンに映し出されると子供のように号泣し…「こんな幸せなことはない」【現地発】

カテゴリ:ワールド

リカルド・セティオン

2024年12月24日

アドリアーノの息子が先制ゴールを

12月15日の引退試合でプレーしたアドリアーノ。(C)Getty Images

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 21世紀初頭を代表するストライカー、アドリアーノが12月15日、サッカー界に正式に別れを告げた。引退試合は「皇帝の最後の戦い」(アドリアーノはラテン語でハドリアヌス。古代ローマのハドリアヌス帝とかけて皇帝と呼ばれている)と銘打たれ、フラメンゴ・レジェンズ対アミーゴス・ダ・イタリアが聖地マラカナンで対決した。
 
 フラメンゴはアドリアーノが7歳から所属し、育ったチームであり、イタリアはインテル、フィオレンティーナ、パルマ、ローマと多くのチームでプレーした国だ。とくにインテルでは177試合に出場し、74ゴールを決め、7つのタイトルを獲得した(スクデット4回、イタリア・カップ2回、イタリア・スーパーカップ1回)。
 
 フラメンゴ側はロマーリオ、ジーコ(監督兼務)、ペトコビッチ、ジャウミーニャ、ジュリオ・セーザル、エメルソン・シェイキ、ヴァグネル・ラブといったスター選手たちが参加し、イタリア側はマテラッツィ、コルドバ、ジダ、ゼ・エリアス、ファビオ・シンプリシオなど、イタリアでアドリアーノとプレーした選手たちが名を連ねた。
 
 アドリアーノはこの両チームでプレー。インテル時代のように背番号10のユニホームを身にまとった。本来のアドリアーノは背番号9、生まれながらのCFであり、ゴールハンターだ。それでも彼は背番号10にこだわった。その思いを知ったフラメンゴの永遠の「10番」ジーコは、「10番」を譲ることを決意した。だが、それは違うとアドリア―ノが感じたのだろう。結果、この日のフラメンゴには2人の背番号10がいた。
 
 多くの懐かしい面々とともに、いろいろなシーンが人々の脳裏に浮かぶ。アドリアーノがヴァグネル・ラブと同じピッチでプレーするのは約15年ぶりだ。彼らがフラメンゴで一緒にプレーしていた頃、その攻撃は「Imperio do Amor(愛の帝国)」と呼ばれていた。フラメンゴはあらゆるタイトルを獲得し、2人は得点王に輝いた。フラメンゴサポーターもそうでない人々も、アドリアーノとヴァグネル・ラブがピッチで一緒にいるのを見るのが大好きだった。
 
 かつてセレソンでアドリアーノと共にブラジルの攻撃を担ったフェノーメノことロナウドは、プレーこそしなかったがマラカナンに駆け付け、アドリアーノのトレードマークであるリストバンドを試合開始前に友人に手渡した。
 
 キックオフのボールを蹴ったのは、なんとアドリアーノのおばあちゃん。前半、アドリアーノはフラメンゴの一員としてプレーした。15分、フラメンゴ・レジェンズがビッグチャンスを迎えるが、アドリアーノのヘディングシュートはゴール上に外れた。その後、今度はボレーでゴールを狙ったが、これも高すぎた。
 
 ロマーリオもゴールに迫る。ヴァグネル・ラブがボックス内に低いクロスを供給し、ロマーリオがシュートを試みるが、届かない。結局、前半は両チームとも無得点に終わった。
【動画】インテル時代に決めたアドリアーノのスーパーゴールTOP10
 だが後半、今度はゴールラッシュとなる。記念すべき最初の得点はアドリアーノの息子アドリアニーニョが決めた。アドリアーノとともに、アミーゴス・ダ・イタリアでプレーしていたのだ。
 
 その後、フラメンゴのアティルソンとロマーリオがネットを揺らしている。。
 
 そして69分、ついにアドリアーノのゴールが生まれた。アドリアーノはクロスを頭で合わせ、ゴールネットを揺らし、両チームのスターたちから称賛された。
 
 しかし、最も感動的な瞬間は75分、試合が一時期中断された時に訪れた。2004年に43歳で亡くなったアドリアーノの父、アウミール・レイチ・リベイロの姿と声がAIを使って再現され、マラカナンの巨大スクリーンから息子に語りかけ、引退を祝福したのだ。
 
 ロナウドの後継者と思われていたアドリアーノが、良いパフォーマンスができなくなり、批判され、精神のバランスを崩し、アルコールに逃げ、世界のトップから姿を消したのは、この父親の死が引き金だったと言われている。父親の姿がスクリーンに映し出されるとアドリアーノはまるで子供のように号泣した。スクリーン内の父親はアドリアーノに、フラメンゴのシャツを着てグラウンドを一周し、彼がこよなく愛したスタジアムとチームに最後の別れを告げることを求めた。スタンドに詰め掛けた約3万人のサポーターは、それにスタンディングオベーションで応えた。
 
「父がここにいないのは残念だけど、でも、僕が父から学んだ多くのことに彼は満足しているはずだ」
 
 試合後、アドリアーノはそう語っていた。
 
 試合が再開されると、アミーゴス・ダ・イタリアはルイが、フラメンゴは元柏のエジウソンがゴールを決めた。
 
 そして86分、アドリアーノがジダ相手にPKを決め、4-3でフラメンゴが勝利を収め、この日の午後と彼のキャリアを華々しく締めくくった。
 
「何よりも大切だったのは、仲間と再会できたことだった。彼らが僕に対して抱いてくれている愛情が一番尊いものなんだ。例えばフラメンゴ史上最高のアイドルであるジーコが、僕のサッカー選手としてのお別れに駆けつけてくれる。こんな幸せなことはない」
 
 リオデジャネイロ市のペンハ地区にあるファベーラ(スラム街)、ビラ・クルゼイロで生まれたアドリアーノ。サッカーでそこから抜け出し、一時期は世界のトップクラスに上り詰めた男だが、うつ病やアルコール依存症などにずっと苦しんできた。今年の頭にはビール片手に裸足でよろめきながら街を歩くアドリアーノが目撃され、心配されていたが、この日のアドリアーノは、かつての姿を取り戻したかのようだった。
 
 ジーコ、ロマーリオ、その他多くの選手たちが、ディディコ(アドリアーノのニックネーム)を祝福し、彼がサッカー界の歴史に名を残した名手であったことを認めたのだ。
 
 
取材・文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子
 
【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/1963年8月29日生まれ、ブラジル・サンパウロ出身。ジャーナリストとし中東戦争やユーゴスラビア紛争などを現地取材した後、社会学としてサッカーを研究。スポーツジャーナリストに転身する。8か国語を操る語学力を駆使し、世界中を飛び回って現場を取材。多数のメディアで活躍する。FIFAの広報担当なども務め、ジーコやカフー、ドゥンガなどとの親交も厚い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授として大学で教鞭も執っている。

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