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因縁のクーマンは倒したが…EUROのイングランドにはパッション、フレア、ドラマ性がなかった【英国人コラム】

カテゴリ:ワールド

スティーブ・マッケンジー

2024年08月01日

31年前に生まれた因縁

因縁浅からぬ相手だったクーマンとオランダ代表を、ワトキンスの劇的なゴールで下したイングランド。31年前の雪辱を見事に果たす。(C)Getty Images

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 ロンドンから西へ向かう列車に乗ってウェールズを訪れた。7月最初の週末だ。大切な友人の娘さんが結婚し、そのウェディングパーティーに出席するためだった。
 
 ウェールズといえば、フットボールよりもラグビーが断然人気で、だからというわけではないが、娘さんの結婚相手は元ラグビー選手だった。25歳という若さで引退を余儀なくされたのは、首の怪我が原因らしい。ラグビーは常に危険と隣り合わせだ。
 
 壮観だったのは、かつてのチームメイトが何人も集まった新郎の友人たちの一団。みんなゴツくて、デカくて、圧倒されたね。
 
 この日は7月6日の土曜日で、悩ましかったのは、イングランドの試合と重なってしまったこと。EURO準々決勝のスイス戦だ。ロンドンから一緒に来た友人たちはソワソワと落ち着かなくて、彼らと一緒にスマホの中継をチラチラ見ながら宴席で一喜一憂したのは、ちょっと不躾だったかもしれないな(笑)。
 
 イングランドは苦しみながらもPK戦でスイスを下して準決勝に勝ち上がり、決勝進出をかけてオランダと戦ったのは周知の通り。そのオランダ、そしてチームを率いるロナルド・クーマン監督は、イングランドにとって因縁浅からぬ相手だった。
 
 いまから31年前の話だ。1994年アメリカ・ワールドカップの予選で、イングランドはオランダと同組になった。
 
 93年10月の二度目の直接対決は、敵地ロッテルダムでのアウェーゲーム。ここまで両チームはともに勝点11、得失点差でオランダがグループ2位、イングランドが3位という状況で、予選はこれを含めてあと2試合と、どちらにとっても負けられない戦いだった。
 
 試合は0-0で前半を折り返し、迎えた50分過ぎだった。イングランドはデイビッド・プラットがゴール前へと抜け出すビッグチャンス。しかし、ペナルティーエリアに入ろうとしたところで、後ろから倒される。ファウルの笛が鳴る。PKだ、レッドカードだ、とスタジアムが色めき立つ。
 
 ところが、主審が提示したのはイエローカード、指を差したスポットはボックスのぎりぎり手前。イングランドにとって、もっとも望まざる判定が重なった。
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 最悪だったのがその後の展開だ。それでも絶好の位置からのFKは、トニー・ドリーゴが壁に当てる。そしてその7分後。今度はオランダがイングランドのエリア手前でFKのチャンス。名手の登場、クーマンだ。ふわりと浮かせて落とした美弾が、先制のネットを揺らす。イングランドが叩きのめされたのは、このクーマンこそ、プラットを倒して失点のピンチを防ぎ、それでいてレッドカードを免れた当の本人だったからだ。
 
 結局、追加点も許して0-2で敗れたイングランドは、サンマリノとの最終戦には完勝したもののグループ3位と一歩及ばず、ワールドカップ出場を逃すのだ。
 
 その因縁のクーマンとオランダを、イングランドは終了間際の劇的なゴールで下し、2大会連続の決勝進出を果たした。
 
 大会を通して、少なくとも準々決勝まではイングランド国内の盛り上がりはいまひとつだった。というのは、やはり退屈な試合が続いたから。イングランドのファンが求めるのは、情熱的でエキサイティングなプレーでありゲームだ。今回のEUROを戦ったイングランド代表には、ワールドクラスのタレントは揃っていたかもしれないが、ファンの心を揺さぶるパッション、フレア、ドラマ性がなかった。
 
 それがあったのが、82年や90年(ワールドカップ)のチームであり、EURO96のチームだ。だから、いまでも多くのファンが当時のユニホームを着て、みずからのアインデンティティーとして誇っているのだ。
 
 
文●スティーブ・マッケンジー(サッカーダイジェスト・ヨーロッパ)
 
Steve MACKENZIE
スティーブ・マッケンジー/1968年6月7日、ロンドン生まれ。ウェストハムとサウサンプトンのユースでプレー経験がある。とりわけウェストハムへの思い入れが強く、ユース時代からのサポーターだ。スコットランド代表のファンでもある。大学時代はサッカーの奨学生として米国で学び、1989年のNCAA(全米大学体育協会)主催の大会で優勝した。現在はエディターとして幅広く活動。05年には『サッカーダイジェスト』の英語版を英国で手掛け出版した。
 
※『ワールドサッカーダイジェスト』2024年8月1日号の記事を加筆・修正

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