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昇格組でもボールを支配するサッカーにトライするスペイン。Jリーグでは「得策ではない」と...

カテゴリ:連載・コラム

小宮良之

2023年09月18日

ピミエンタ監督はルサ下部組織の指導者

ラス・パルマスの中心を担うジョナタン・ビエラ。(C)Getty Images

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 スペイン1部リーグ、ラス・パルマスの戦い方がじつに小気味よい。

 2部からの昇格チームにかかわらず、どんな相手にも真っ向勝負を挑んでいる。ボールを握る強度は、ラ・リーガ屈指。ポゼッション率はリーグ上位を争う。昨シーズンは攻撃的サッカーでチャンピオンズリーグ出場を決めたレアル・ソシエダとの直近の一戦でも、ボール支配率で優位に立ち、多くの決定機を作った。

 開幕から5試合で2分け3敗と結果はついてきていると言えない。しかし積極的にボールプレーをする姿勢は、共感を呼ぶ。ボールゲームであるサッカーの原点を裏切っていないからだ。

 チームを率いるガルシア・ピミエンタ監督は、もともとバルサ下部組織の指導者で、長くバルサBを率いていた。彼が持ち込んだ“ボールありき”のコンセプトが、仕組みとしてはまって選手が躍動。元バルサのサンドロ・ラミレス、ムニル・エル・ハダディ、ミカ・マモル、ジュリアン・アラウホなどが勇躍している。

 また、ラス・パルマスのあるグランカナリア島は、ファン・カルロス・バレロン、ダビド・シルバ、ペドリなどファンタジスタを数多く輩出してきた。エースで生え抜きのジョナタン・ビエラもトリッキーなテクニックの持ち主で、同じく下部組織出身のサイドアタッカー、アルベルト・モレイロも即興的なテクニシャンだ。

「自分たちはこの戦いを続けていく」

 ピミエンタ監督が胸を張るように、戦術が選手や風土とマッチしている。

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 もっとも、ラ・リーガでは昇格クラブが堂々とした攻撃サッカーで上位クラブをひっくり返すことは、それほど珍しいことではない。

 昨シーズンも、昇格組だったジローナはボールゲームで人々を楽しませ、旋風を起こしている。格下だからと言って、守りに入らない。自分たちでボールをつなぎ、運び、崩していった。その仕組みが整っていたおかげで、選手たちはストレスなく、ピッチで主体的に戦うことができた。今シーズンも暫定4位と好調だ。

 翻ってJリーグでは、まだまだ下部リーグでは、「ボールありきのプレーを目ざすのは得策ではない」と言われる。必然的に、とにかく蹴り合う形になることが多い。爆弾を預け合うようなサッカーで、持っている方が危険、という理論だが...。

 昨シーズン、J2でセンセーションになったロアッソ熊本のようなチームがもっと出てくると、“サッカーの水準”は上がる。何もマンチェスター・シティのようにプレーできなくても、メカニズムを作ってボールを大事にすることはできる。「このレベルでは蹴るしかない」「とにかく球際、走れ」。そうしたチームに流されず、ボールを使って打ち負かすチームが増えると、世界は広がるはずだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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