イタリアメディアの日本人選手に対する注目度が高まっている。ナポリのアウレリオ・デ・ラウレンティス会長が、日本人の獲得に興味を示しているというニュースが流れた後に、会長自身がその意向を表明したからだ。
 
　昨夏、フェネルバフチェからナポリに加入した韓国代表のCB、キム・ミンジェが予想以上の活躍を見せ、韓国からのスポンサー獲得、オフシーズンの韓国ツアー実現という数百万ユーロ規模のビジネスまでももたらした。これに味を占めたデ・ラウレンティス会長が韓国に加え、日本の選手獲得を目論んでいるという背景事情がある。
 
　それを察知した『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙が５月11日、ナポリの獲得候補となりうる日本人にスポットライトを当てた記事を掲載。それと同じタイミングで一般紙『ラ・レプブリカ』が企画したスクデット獲得記念のロングインタビューの中で、デ・ラウレンティス会長が「できればアメリカ人と日本人を獲得したい」とコメントしたことで、一気に注目度が高まった。
 
『ガゼッタ』はナポリの獲得候補として、イ・ガンイン（マジョルカ）と久保建英（Ｒ・ソシエダ）に加え、鎌田大地（フランクフルト）、板倉滉（ボルシアＭＧ）、伊藤洋輝（シュツットガルト）の名前を挙げている。ただし、彼らは『ガゼッタ』が「獲得の可能性あり」とした選手に過ぎず、移籍専門記者のジャンルカ・ディ・マルツィオによれば、獲得への具体的な動きは確認されていない。

【PHOTO】2023年夏の移籍市場で新天地を求めた名手たちを一挙紹介！

　セリエＡにおける日本人選手への注目に関しては、『ガゼッタ』と『レプブリカ』が続報を出したわけではなく、ナポリ以外のクラブが日本人に照準を合わせたスカウティングに勤しんでいるという情報もない。もちろん、欧州で活躍中の日本人が移籍系メディアに取り上げられることはあるが、それは注目の無名タレントという位置づけであり、日本という国籍とは無関係だ。
 
　セリエＡで活躍する日本人が少ない理由はいくつか考えられる。イタリアのクラブが南米や東欧、北欧でのスカウティングを優先する傾向が強いうえ、アジアに特化したエージェントがいないこと。これまで中田英寿、長友佑都、冨安健洋の他に目立った成功事例がなく、むしろ失敗事例の印象が強く残っていること。国籍による先入観を払拭する役割を果たすデータスカウティングがそれほど広まっていないこと。それらが重なった結果だと筆者は考える。
 
　欧州全体を見渡せば、日本人選手はドイツ、ベルギー、オランダ、スコットランドなどで確固たる実績を築いていて、選手供給国としてはポーランドやデンマーク、メキシコ、ウルグアイ、チリ、コロンビア、セネガルといったFIFAランクのトップ30に入るような国々の選手と同レベルの実績と評価を確立しつつあるだろう。移籍市場における評価額も実力相応と見ていい。その点から見ると、イタリアのクラブはまだ日本人選手の良さを十分に評価しきれていないとすら言えるかもしれない。
 
　今回の日本人選手への注目は、『ガゼッタ』の記事がイタリアや日本のメディアとSNSで紹介されることによって、情報がいわゆる“エコーチェンバー現象”的な広がりを見せた結果。そう解釈するのが妥当に思えるが、これをきっかけに日本人選手への注目と評価が高まり、セリエAで活躍する者が出てくることを期待したい。
 
文●片野道郎
※『ワールドサッカーダイジェスト』2023年６月15日号より転載