「『ACLを目ざす』とは、マリノスのようなチームが言うべき」“過度の期待”に警鐘を鳴らした札幌指揮官の言葉…欧州でも「CLシンドローム」が 【小宮良之の日本サッカー兵法書】
カテゴリ:連載・コラム
2022年10月30日
デポルティボは無理な投資で今や3部に
親が大きな期待をかけ過ぎると、子供は重圧を受けるという。期待と重圧の論理は、プロサッカークラブでも同じ作用がある。
「チャンピオンズリーグ・シンドローム」
2000年代、欧州ではチャンピオンズリーグ(CL)の拡大で出場数が増えたことによって、夢の舞台に立てるチームが一気に増えた。人々の期待は膨らんだ。クラブも重圧を感じながら、それに応えようと補強した。しかし多くの場合、期待は風船が弾けるように重圧に潰されることになった。相応ではない戦力で華やかな舞台に立ち、夢うつつになるのか。
背伸びして戦った消耗は激しく、国内リーグでも低迷した。最悪の場合、2003-04シーズンのセルタのようにCLベスト16に進出しながら、2部に転落している。デポルティボ・ラ・コルーニャに至っては、無理な投資でCLを狙い続け、短い夢の時代を謳歌した後、約1億ユーロの借金で破産申請に発展し、今や3部で喘ぐ有様だ。
「チャンピオンズリーグ・シンドローム」
2000年代、欧州ではチャンピオンズリーグ(CL)の拡大で出場数が増えたことによって、夢の舞台に立てるチームが一気に増えた。人々の期待は膨らんだ。クラブも重圧を感じながら、それに応えようと補強した。しかし多くの場合、期待は風船が弾けるように重圧に潰されることになった。相応ではない戦力で華やかな舞台に立ち、夢うつつになるのか。
背伸びして戦った消耗は激しく、国内リーグでも低迷した。最悪の場合、2003-04シーズンのセルタのようにCLベスト16に進出しながら、2部に転落している。デポルティボ・ラ・コルーニャに至っては、無理な投資でCLを狙い続け、短い夢の時代を謳歌した後、約1億ユーロの借金で破産申請に発展し、今や3部で喘ぐ有様だ。
今年9月、横浜F・マリノス対コンサドーレ札幌の試合後の会見、一つのやりとりがあった。この日、札幌は首位を走る横浜と堂々渡り合ってのスコアレスドローで、本来の目標である「J1残留」に向けて着実に近づいた。
――引き分けたことで、来季のアジア・チャンピオンズリーグ出場の可能性はなくなりましたが?
地元メディアからの問いは現実離れしたもので、サッカーに精通している記者は恥ずかしさを感じるものだろうが、札幌のミハイロ・ペトロヴィッチ監督は諭すようにこう返している。
「開幕前、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)を目指す、とはたしかに言いました。しかし、これは現実的ではありません。戦いが始まるのに、ファン・サポーターへ『残留を目指す』というメッセージは前向きではなかっただけで…。ただ、もしブンデスリーガでアウスブルクが『チャンピオンズリーグ出場権を狙う!』と本気で言ったら、ドイツ中が笑うでしょう。例えばマリノスのように6人の有力なブラジル人選手を獲得できる予算を組めるチームが、『ACLを目ざす』と言うべきで、予算規模であまりに違いがあるのです」
老練な指揮官は、バルーンを高く上げることに警鐘を鳴らしたかったのだろう。メディアを含めたファン・サポーターが過度な要求をすることで、チームは簡単に崩れる。現実的な目標を失ってはならない。
本来、周りが見つめるべきはサッカーの中身なのだろう。そのサッカーに面白味があるのか、選手が充実感を覚えて成長し、それが独創性につながっているか。タイトルやカップ戦の出場権を問うのも、エンターテイメントの価値ではある。しかし現実を見ずに結果だけを求めると、待っているのはろくでもない結末だろう。
リーグ終盤、札幌は王者・川崎フロンターレを撃ちあいの末に破ったが、このような試合がサッカーの至高なのだ。
文●小宮良之
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
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――引き分けたことで、来季のアジア・チャンピオンズリーグ出場の可能性はなくなりましたが?
地元メディアからの問いは現実離れしたもので、サッカーに精通している記者は恥ずかしさを感じるものだろうが、札幌のミハイロ・ペトロヴィッチ監督は諭すようにこう返している。
「開幕前、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)を目指す、とはたしかに言いました。しかし、これは現実的ではありません。戦いが始まるのに、ファン・サポーターへ『残留を目指す』というメッセージは前向きではなかっただけで…。ただ、もしブンデスリーガでアウスブルクが『チャンピオンズリーグ出場権を狙う!』と本気で言ったら、ドイツ中が笑うでしょう。例えばマリノスのように6人の有力なブラジル人選手を獲得できる予算を組めるチームが、『ACLを目ざす』と言うべきで、予算規模であまりに違いがあるのです」
老練な指揮官は、バルーンを高く上げることに警鐘を鳴らしたかったのだろう。メディアを含めたファン・サポーターが過度な要求をすることで、チームは簡単に崩れる。現実的な目標を失ってはならない。
本来、周りが見つめるべきはサッカーの中身なのだろう。そのサッカーに面白味があるのか、選手が充実感を覚えて成長し、それが独創性につながっているか。タイトルやカップ戦の出場権を問うのも、エンターテイメントの価値ではある。しかし現実を見ずに結果だけを求めると、待っているのはろくでもない結末だろう。
リーグ終盤、札幌は王者・川崎フロンターレを撃ちあいの末に破ったが、このような試合がサッカーの至高なのだ。
文●小宮良之
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
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