ひと言で、完敗だった。ブラジル代表に０−１とスコアでは善戦したように映るが、試合内容を踏まえれば完敗となる。ワールドカップのアジア最終予選では素晴らしかった伊東も三笘も見せ場をほとんど作れず、先のパラグアイ戦で圧倒的な存在感を示した鎌田も沈黙。ゴールの気配がまるでしなかった点で、ワールドカップ本大会に不安を残す戦いぶりだった。

　日本の戦いぶりよりもむしろ目についたのは、ブラジル代表のしたたかさ。日本の守備を崩せない時間帯もありながら、PKとはいえ最終的には１−０で勝つ。サッカーの強国らしい、嫌らしい戦い方で白星を掴むあたりは流石だった。

　嫌らしいと言えば、ブラジル代表の前線からのプレス。日本の守備陣にほとんど余裕を与えないプレッシャーのかけ方がまさに絶妙で、そのプレスこそ「ブラジル優勢」の流れを決めるポイントのひとつと言えた。 事実、日本はビルドアップの局面から苦戦。スムーズな流れで最前線の古橋にボールを届ける攻撃はなかった。守備に追われ、防戦一方という展開だったのだから、少なくとも惜敗などと言うべきではない。

　何より残念なのは日本が決定機をひとつも作れなかった点だ。１失点はどんなチームと戦ってもあり得ることだから、このブラジル戦での失点もそこまで気にする必要はない。どちらかと言えば、「よく１失点におさえた」という印象のほうが強い。やはり問題は点を取れなかった事実、いや、決定機さえ作れなかった体たらくのほうだろう。

　伊東のドリブルは封じられ、古橋は孤立。原口と田中のインサイドハーフも良い形でボールを持てず、２列目から前に飛び出すシーンは皆無だった。南野が良かったのは守備面だけで、後半に投入された前田、三笘、鎌田、堂安も爪痕を残せなかった。攻撃陣が壊滅状態で、しかもセットプレーでゴールになる予感もせず、これでは……。

　もちろん、PKで失点するまで耐えていた守備陣は素晴らしかった。アンカーの遠藤、吉田と板倉の両CBはよく身体を張っていたし、GKの権田も鋭い反応で好セーブを連発していた。さらに言えば、原口もディフェンスの局面では戦えていた。

　あれだけ攻め込まれながら１失点は上出来と言えるかもしれない。 それでも、結果は０−１。決定機ゼロという点で、やはり完敗である。果たして、これがワールドカップでベスト８以上を目指せるチームなのだろうか。ファーストトラップの質、ちょっとした状況判断でもブラジルと大きな差が感じられたこの一線を振り返ると、そうした疑問を抱いてしまう。

　セットプレーの怖さのなさはある意味、絶望的。本大会でドイツやスペインから勝点を掠め取るには“試合展開をひっくり返せる”セットプレーの質にとことんこだわらないと希望は見えてこない。

　強豪相手に健闘で評価される時代は終わった。スペインやドイツと同居したグループを本気で勝ち抜くなら、この日のブラジル戦は攻め手がない以上、せめてスコアレスドローで終わらせないといけなかった。

文●白鳥和洋（サッカーダイジェストTV編集長）

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