今季の東京Vはしぶとさでは歴代屈指のチームだ。失点を重ね、劣勢の時間が続き、大敗すらあり得る展開でもどうにか持ち堪え、最終的には立て直して勝点を拾ってくる。

　その特異性は、６節の山形戦からの３試合にほぼ集約されている。

　山形戦は２点ビハインドから佐藤凌我と新井瑞希のゴールで追いつき、再び突き放されながらも終了間際に谷口栄斗のプロ初得点で３－３の同点に持ち込んだ。続く琉球戦はまたも２点ビハインドを背負いながら５連続ゴールの逆転勝利。８節の大分戦は明らかに相手が優位にゲームを進めていたが、加藤蓮のプロ初得点を守り切って１－０の勝利を収める。

　いずれのゲームも逆境における反発力、勝つチャンスを残し続けて瀬戸際の攻防を制する出色の粘り強さを見せた。ここぞという場面での集中力、ゴールを奪う決定力の高さはリーグトップの19得点が証明。９節の熊本戦で２－３と初黒星を喫したが、ここまで勝点18を積み上げて２位につける。

　好発進の要因のひとつは「トレーニングで状態の良い選手、試合で力を発揮できる選手を見つけて使っていく」と方針を話す堀孝史監督の選手起用が的確だったことだ。

　新型コロナウイルスの影響や故障者が続出するなか（特に前線の核と期待された阪野豊史を開幕前に失ったのは大いに痛手だった）、代わりに出場機会を得た選手が結果を出したのは指揮官の見立てが的を射ていたからにほかならない。山越康平や深澤大輝のように新たなポジションで起用され、プレーの幅を広げる選手まで現われた。

　また、江尻篤彦強化部長の推し進めるチーム編成の狙いがマッチしたことも挙げられる。これまでアカデミー出身選手を強化の主軸としてきたが、今季は５人の大卒新人を迎え入れた。チームづくりにおける歴史的転換点と言っても過言ではない。

　明治大出身の加藤蓮、日体大出身の河村慶人などアスリート能力の高さが売りのプレーヤーが加わり、攻守両面のプレー強度や走力の水準が引き上げられた。それに触発され、ユース出身の山本理仁や石浦大雅は見違えるようなたくましさを身につけつつある。

「技術を育む伝統のすばらしさに、フィジカルの要素を組み込むのが本来の狙い。現時点ではまずまずの成果が出てますね」と江尻強化部長は手応えを語った。
 

　さらに「伸び盛りの若手が多く、戦術の浸透度も高い。今年が勝負」と見据える梶川諒太をはじめ、チームを引き締めるベテランの存在が効き、現在の順位に反映されている。

　前線からのプレッシングが機能しない場合の脆さを露呈した前節の熊本戦を踏まえ、プロ２年目の若きエース佐藤凌は言った。

「球際の争い、運動量の部分で相手を上回らなければより上の順位にはいけない。負けた試合で得たことを次に生かせるかが重要。反省すべきところを見直し、次の試合では連敗しないように勝点３を取りたいです」

　ここにきて離脱していた選手が続々と復帰し、競争がより激しくなっていくのは確実だ。次節、アウェーの山口戦。戦力の回復を受け、二段ロケット点火となるか注目である。

取材・文●海江田哲朗（フリーライター）

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