結果も必要だが、それ以上にプロセスが大事。
――昨シーズン降格が決まった試合後の会見で「あと一歩の差が大きかった」と話していたのが印象的でした。今シーズンはJ1を見据えながらの戦いですが、差が埋まった実感はありますか?
「J1のチームとやっていないので、正直分かりませんが、確実に埋めなきゃいけないとは思っています。自分たちが3年間積み重ねてきたことを、また次の年に出せる循環じゃないとチームも選手も良くならない。勝ったって負けたって、良いこと悪いことはある。そのなかで自分たちのサッカーを示していくんだという気概と積み重ねが、僕が感じたJ1との少しの差を埋める最大の参考書になると思っています」
――昨シーズンはJ1で決定力の差に苦しみましたが、今シーズンはシュート決定率14・0パーセント(リーグ3位)とクオリティーのアップが数字にも表われています。
「データが選手に自信を与え、彼らが攻撃的なスタイルにメリットを感じることで、責任を持ってプレーの決断をできる選手が増えたと思います。逆に、ボールが来たから打たなきゃいけないとか迷いのあるプレーは少なくなってきた。今年のチームは大人になったなと。選手たちにも、『お前たちが良いと思ってやってきたんだから、その過程に自分たちで泥を塗るなよ』と言っています」
――今後は湘南対策で、引いて守りを固めるチームも増えてくると思います。そういった相手を崩す策は?
「例えばリトリートしている相手に狭い縦パスばかり入れ続けていたら、相手はボールを奪いやすくなってしまうし、だからと言って横にずっと逃げていたら、いつまで経っても点は取れない。当然、相手のペナルティーエリアにボールを運べば、自陣でボールを持っているよりも得点の確率は高くなる。(20節の)北九州戦の2得点は、ゴール前にボールを運んで仕掛けて生まれたものでした。結果も必要ですけど、それ以上にプロセスが大事だと思います」
――前半戦の結果を見ると、チーム始動日に掲げた「勝点80、得点80」は十分到達可能な数字です。
「優勝や昇格を口にするのではなく、勝点の目標を出したのは、我々のスタイルを突き詰めて勝点3を積み上げていくしかないと思ったから。2年前は勝点75で、勝点80、得点80を取ったら湘南がJ2にいた歴史の中では一番良い数字なので、過去最強を目指そうと弾き出したものです。
だけどシーズンが進むにつれて、選手たちから『曺さん、勝点80、得点80を取ったからいい、じゃないですよね』という空気を感じた瞬間がありました。数字に捉われず、どの試合も勝点を取るエネルギーで相手を上回っている手応えがあったので、だったらリーグで一番を目指そう、優勝を狙おうと言いました。俺の気持ちはお前らと一緒だよ、と。選手たちの成長を見て、自分の言葉として言えたのは価値がある。そう思わせてくれた彼らには心から感謝しているし、感謝して信頼しているからこそ、僕は僕で厳しいことを言っていこうと思っています」
――監督自身、後半戦でチームがどう成長していくか楽しみなのでは?
「まだチームとして完成されていないし、選手たちも自分の限界を決めていないという点では、伸びしろは大きいと思います。ただし、2巡目に入れば相手も我々に対して目の色を変えてくる。前半戦は良い意味で忘れて、またフレッシュな状態で残り21試合を戦う気持ちが大事だと思います。我々は今の1位の座を守るのではなく、J1やACLを目指していくチームだから、もう一度チャレンジしていくつもりです」
プロフィール
チョウ・キジェ/1969年1月16日生まれ、京都府出身。現役時代はDFとして、浦和や神戸などでプレー。97年の引退後は、川崎のJrユース監督やC大阪のヘッドコーチ、湘南のユースコーチなどを歴任。2009年から湘南のヘッドコーチに昇格し、12年に現職に就いた。確かな育成手腕だけでなく、揺るがぬ信念、熱い人間性でも観る者を魅了する。
※『週刊サッカーダイジェスト』7月22日号p64-66「曺貴裁インタビュー」より抜粋。
取材・文:小田智史(週刊サッカーダイジェスト)
「J1のチームとやっていないので、正直分かりませんが、確実に埋めなきゃいけないとは思っています。自分たちが3年間積み重ねてきたことを、また次の年に出せる循環じゃないとチームも選手も良くならない。勝ったって負けたって、良いこと悪いことはある。そのなかで自分たちのサッカーを示していくんだという気概と積み重ねが、僕が感じたJ1との少しの差を埋める最大の参考書になると思っています」
――昨シーズンはJ1で決定力の差に苦しみましたが、今シーズンはシュート決定率14・0パーセント(リーグ3位)とクオリティーのアップが数字にも表われています。
「データが選手に自信を与え、彼らが攻撃的なスタイルにメリットを感じることで、責任を持ってプレーの決断をできる選手が増えたと思います。逆に、ボールが来たから打たなきゃいけないとか迷いのあるプレーは少なくなってきた。今年のチームは大人になったなと。選手たちにも、『お前たちが良いと思ってやってきたんだから、その過程に自分たちで泥を塗るなよ』と言っています」
――今後は湘南対策で、引いて守りを固めるチームも増えてくると思います。そういった相手を崩す策は?
「例えばリトリートしている相手に狭い縦パスばかり入れ続けていたら、相手はボールを奪いやすくなってしまうし、だからと言って横にずっと逃げていたら、いつまで経っても点は取れない。当然、相手のペナルティーエリアにボールを運べば、自陣でボールを持っているよりも得点の確率は高くなる。(20節の)北九州戦の2得点は、ゴール前にボールを運んで仕掛けて生まれたものでした。結果も必要ですけど、それ以上にプロセスが大事だと思います」
――前半戦の結果を見ると、チーム始動日に掲げた「勝点80、得点80」は十分到達可能な数字です。
「優勝や昇格を口にするのではなく、勝点の目標を出したのは、我々のスタイルを突き詰めて勝点3を積み上げていくしかないと思ったから。2年前は勝点75で、勝点80、得点80を取ったら湘南がJ2にいた歴史の中では一番良い数字なので、過去最強を目指そうと弾き出したものです。
だけどシーズンが進むにつれて、選手たちから『曺さん、勝点80、得点80を取ったからいい、じゃないですよね』という空気を感じた瞬間がありました。数字に捉われず、どの試合も勝点を取るエネルギーで相手を上回っている手応えがあったので、だったらリーグで一番を目指そう、優勝を狙おうと言いました。俺の気持ちはお前らと一緒だよ、と。選手たちの成長を見て、自分の言葉として言えたのは価値がある。そう思わせてくれた彼らには心から感謝しているし、感謝して信頼しているからこそ、僕は僕で厳しいことを言っていこうと思っています」
――監督自身、後半戦でチームがどう成長していくか楽しみなのでは?
「まだチームとして完成されていないし、選手たちも自分の限界を決めていないという点では、伸びしろは大きいと思います。ただし、2巡目に入れば相手も我々に対して目の色を変えてくる。前半戦は良い意味で忘れて、またフレッシュな状態で残り21試合を戦う気持ちが大事だと思います。我々は今の1位の座を守るのではなく、J1やACLを目指していくチームだから、もう一度チャレンジしていくつもりです」
プロフィール
チョウ・キジェ/1969年1月16日生まれ、京都府出身。現役時代はDFとして、浦和や神戸などでプレー。97年の引退後は、川崎のJrユース監督やC大阪のヘッドコーチ、湘南のユースコーチなどを歴任。2009年から湘南のヘッドコーチに昇格し、12年に現職に就いた。確かな育成手腕だけでなく、揺るがぬ信念、熱い人間性でも観る者を魅了する。
※『週刊サッカーダイジェスト』7月22日号p64-66「曺貴裁インタビュー」より抜粋。
取材・文:小田智史(週刊サッカーダイジェスト)