【番記者コラム】アジア制覇と幻のマドリー戦。そして“最強の磐田”は生まれた

カテゴリ:Jリーグ

高橋のぶこ

2020年04月30日

「しかし、『世界』ではそれでは通用しない」(鈴木監督)

新戦術を落とし込み、チームを一段階上のレベルに引き上げた鈴木監督。選手の気持ちを慮りながらの指導も手腕のひとつだった。(C)SOCCER DIGEST

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 指揮官はチームリーダーたちと話し合い、「今までより一段階上のことをやろうとしているのだから壁があって当然だが、やる前から放棄をするな、やり切ってみたところでどうしてもダメなら元に戻す」と説得。連動が上手くいかなくても、とにかくプレスをするために動くことを求めた。

 一方的に押しつけるのではなく、選手の気持ちを慮りながらの指導は鈴木監督の優れた手腕のひとつ。真剣なミーティングのあと、「やってみようよ」と言ったのは中山雅史だった。後輩たちに常に自分の限界をも超えて努力する姿を見せ続けてきたエースの言葉に選手たちは納得し、貪欲に新しい戦術に取り組み、わずかな期間で見事に花開かせた。

 初めて新たな強さがピッチに鮮明に描かれたのは、01年の第1ステージ4節、国立競技場での鹿島戦だった。思惑通り相手ボールになってもすぐに奪い返してゲームを支配し、それまでJリーグの2強として数々の頂上決戦を戦ってきた難敵にほとんど何もさせずに2-1で完勝した一戦は、いまも語り種だ。

 そもそも、鈴木監督がすでに強豪の地位にあった磐田に新戦術を施したのは、なぜか。ひとつには、成熟の域にあった選手たちに新たな挑戦をさせることで成長へのモチベーションの停滞を防ぎたいという思いがあった。さらに、個の守備力が弱いというウイークポイントを、チーム戦術を整えることで補い、守備力を高める狙いがあった。そして、そこには夏に迎える未体験の大一番への逼迫した危機感があった。
 
「中盤の顔ぶれを見た時、攻撃が得意な選手が多い。逆に言えば、守備の場面で1対1になるとあまり強くない。Jリーグではそれでも通用したかもしれないし、それまでのサッカーでもよかった。しかし、『世界』ではそれでは通用しない。その試合を想像してみたら、サイドの1対1のシーンでは全部相手に破られるだろうと。相手はセンタリングもゴール前のスキルも高いし、一発で失点する。そうなったら手も足も出ない。だから、そこで時間をかけさせようと考えた」

 鈴木監督が、新戦術導入の理由に挙げた『世界』とは、当時、異次元の強さとタレントで銀河系軍団とうたわれたレアル・マドリーとの一戦のことだ。99年、磐田は97年のJリーグ覇者としてアジアクラブ選手権に出場し、優勝。01年7月にスペインで開催される五大陸王者が世界王座を争う第一回世界クラブ選手権にアジア代表として出場し、グループリーグでマドリーと対戦することが決まっていたのだ。

 5月に世界クラブ選手権の延期(結果的には中止)が急遽発表され、残念ながら対戦は幻に終わったが、マドリー戦が予定されていなければ、新戦術導入はなかっただろう。そう考えると、98年から99年にかけて、Jリーグやカップ戦をこなしながらの超過密日程で広大なアジアを遠征して勝ち続け、10万人の敵サポーターで埋めつくされた敵地での決勝でイランのエステグラルを破り、Jクラブとして初めてアジア王座に就いたことこそ、“最強の磐田”を生み出す要因だったと言える。
 
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