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サポーターから愛されたふたりのGKが大宮で邂逅 加藤順大と塩田仁史、それぞれのストーリー

カテゴリ:Jリーグ

塚越 始(サッカーダイジェスト)

2014年12月31日

ひとりの少年の存在が、折れかけた塩田の心を奮い立たせた。

FC東京から大宮へ完全移籍した塩田。長いリハビリ生活も乗り越え、昨季はリーグで2試合、ナビスコカップで6試合に出場している。(C) SOCCER DIGEST

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 背中がとても大きく見える。そんな印象が強い。
 
 FC東京の背番号1を付けてきた塩田仁史が、新たにオレンジ色のユニホームに袖を通すことになった。
 
 これまで支えてきた多くの人から、このまま引退するまでFC東京ひと筋で戦い抜いてほしいと言われてきた。本人もその道を貫くことは、間違いなく素晴らしい人生になるはずだと思っていた。
 
 とはいえ、もちろん第2GKという立場には満足などしていない。そんな折、大宮からオファーが届いた。
 
 君の力を必要としている――。その知らせを知った時、「やっぱり、嬉しかった」と言う。33歳になる自分を、どこかで見て、評価してくれていた。純粋に感動した。もちろん、FC東京での自らの役割や、どんな存在であるかも把握していたつもりだが、その大宮からのオファーによって、心の奥底にいつの間にか眠らせていた「なにか」が触発されたのを感じた。
 
 GKは、経験を積めればフィールドプレーヤーよりも長くキャリアを続けられるポジションだと言われる。とはいえ、将来が安泰なわけでは決してない。1年後、1か月後、いや一寸先さえ……、何が待っているかはまったく分からない。
 
 それは身をもって痛感している。04年から11年間に渡り、FC東京ひと筋で戦ってきた。07年、連続フル出場のJリーグ記録を更新し続けていた土肥洋一からポジションを奪うと、彼の魂をも引き継ぎ、不動の守護神を務めた。
 
 しかし09年のシーズン開幕前、生死の淵をも彷徨うほどの出来事に見舞われた。
 
 わずか2か月の間に壊死性虫垂炎と腸閉塞で、計三度の手術を受けた。1か月以上に及んだ入院生活、絶対安静の日々、絶食をも経験し、体重は10㌔以上減少。鍛え抜いた身体は、もはや別人のように痩せ衰えてしまった。
 
 シーズン開幕後の3月中旬にようやく退院できたが、ほんの数回ボールを蹴っただけで、足の甲を痛めた。蹴ったボールはボーリング球のように重く感じ、まるで飛ぼうとしてくれない。笑い飛ばそうと試みたが、笑えなかった。いっぺんに押し寄せた失望と絶望の闇に、先行きを完全に閉ざされた……。
 
 ただ、闇が深いからこそ、微かな尊い光に身を震わすことがある。塩田のへこたれた心を奮い立たせる、さらなる転機が訪れる。
 
 退院直後、塩田が小学校時代を過ごした日高サッカー少年団に在籍していた男の子の両親から、一通の手紙が届いた。そこには07年のFC東京の味スタでの試合に、塩田に招待されたひとりの少年が、2月に亡くなっていたことが記されていた。その子はずっと塩田のことを応援していた、だからこれからも精一杯頑張ってほしい、私たちもずっと見守っています、と。
 
 暗闇のなかで路頭に迷い、縮こまっていた塩田の背中を、少年の小さな手が力強く後押ししてくれた気がした。弱音を吐こうが、嘆こうが、塩田は結局「やるしかないのだ」と悟る。自分はひとりではなく支えられていると、改めてプロとしてのプライドを自覚する。
 
 歩くこと、ボールを掴むこと、ステップを踏むこと……。少しずつだが、進むしかないのだ。先のことまでは分からないが、目の前のできることを精一杯やるしかない。そう自らに言い聞かせた。
 
 その後、FC東京はJ2降格を経験し、監督交代も相次いだ。塩田自身もリハビリの段階から思い通りにいかず、ジレンマを抱えた時期も少なくなかった。ただ、危機的状況でこそ、「今すべきこと」の大切さを仲間に訴え続けた。
 
 そうやって背中で引っ張り、一進一退を繰り返し今に辿り着いた。
 
 背番号1に熱い声援を送ってくれた人たちとの決別は辛い。ただし、積み上げてきた日々の成果を発揮する場は、「現役の選手である以上、ピッチの上しかない」と分かっている。新しいチャレンジができること。それもきっと素晴らしいに違いないと、今は大きな身体いっぱいに情熱を満たしている。
 
文:塚越 始(週刊サッカーダイジェスト)
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