マフィアをめぐるストーリーと同じ展開。
マドリーの本拠地サンチャゴ・ベルナベウは、どんな敵の前にも陥落することなく立ちはだかる難攻不落の城塞だ。ブンデスリーガで無敵を誇るバイエルンもここでは2度にわたって苦杯を舐めた。
イタリア・セリエAを支配するユベントスも、2年前に一度は準決勝でマドリーを蹴落としたが、ここベルナベウでは引き分けをもぎ取るのが精一杯だった。そして今シーズンも、準々決勝で奇跡的な逆転勝利にあと半歩まで迫りながら、ベルナベウという魔物にはね返された。
ホームでの第1レグで0‐3と完敗を喫したものの、マドリードに乗り込んだ第2レグ、時計が90分を回る直前まで3-0のリードを保ち、すべては延長戦へと持ち越されるかに思われた。しかし終了直前に英国人のマイケル・オリバー主審がPKの笛を吹いて、一瞬のうちに状況が一変。崖っぷちまで追い詰められたマドリーは何事もなかったように準決勝へと駒を進めたのだった。
このPKの判定は、エキスパートの間でもファウルかどうか判断が分かれる微妙なものだった。翌日は世界中のマスコミがこのドラマを取り上げ、あらゆる解釈を披露した。
その中にはなかなか興味深いエピソードも含まれていた。出場停止処分を受けていたマドリーのキャプテン、S・ラモスは、前半は観客席で大人しく試合を見守っていた。しかし後半になるといつの間にかピッチサイドに下りて、スタッフと一緒に座っていた。これはUEFAのルールに抵触する行為だ。私の友人であるスペイン人記者は、マドリードからこんなショートメールを送ってきた。
イタリア・セリエAを支配するユベントスも、2年前に一度は準決勝でマドリーを蹴落としたが、ここベルナベウでは引き分けをもぎ取るのが精一杯だった。そして今シーズンも、準々決勝で奇跡的な逆転勝利にあと半歩まで迫りながら、ベルナベウという魔物にはね返された。
ホームでの第1レグで0‐3と完敗を喫したものの、マドリードに乗り込んだ第2レグ、時計が90分を回る直前まで3-0のリードを保ち、すべては延長戦へと持ち越されるかに思われた。しかし終了直前に英国人のマイケル・オリバー主審がPKの笛を吹いて、一瞬のうちに状況が一変。崖っぷちまで追い詰められたマドリーは何事もなかったように準決勝へと駒を進めたのだった。
このPKの判定は、エキスパートの間でもファウルかどうか判断が分かれる微妙なものだった。翌日は世界中のマスコミがこのドラマを取り上げ、あらゆる解釈を披露した。
その中にはなかなか興味深いエピソードも含まれていた。出場停止処分を受けていたマドリーのキャプテン、S・ラモスは、前半は観客席で大人しく試合を見守っていた。しかし後半になるといつの間にかピッチサイドに下りて、スタッフと一緒に座っていた。これはUEFAのルールに抵触する行為だ。私の友人であるスペイン人記者は、マドリードからこんなショートメールを送ってきた。
「どうしてUEFAがS・ラモスを、そしてマドリーを処分しなかったか知ってるか? それは試合終了直後、PKの判定に対して頭に血が上ったユベントスのアンドレア・アニエッリ会長とパベル・ネドベド副会長が、オリバー主審をつるし上げようと審判控室までやってきて、鍵のかかった扉を蹴破ろうとする大立ち回りを演じたからだ。もしそこにいたS・ラモスが彼らを止め、抱きかかえるようにして遠ざけなければ、大変なことになっていただろう。そのすぐ後、私はUEFAのマッチコミッサリー、そしてその場にいた何人かの証人から話を聞いた。S・ラモスは、もし自分がピッチに下りたことで処分を受けることになったら、ここで起こったことをすべて表沙汰にして審判を身の危険にさらしたUEFAの責任を問う、と言ってマッチコミッサリーを脅したのだそうだ。おかげですべてはなかったことにされた」
当事者はともかく、それを聞き知ったマスコミの誰ひとりとしてその件について記事を書かなかった理由はどこにあるのかと、私はその友人に尋ねた。返ってきたのは、唯一それを記事にしたのは、スポーツ部門に力を入れている政治的な新聞『Abc』だけで、それ以外のメディアはすべてマドリーをめぐる「沈黙の掟」に従った、という返事だった。マフィアをめぐるストーリーと同じ展開だ。
私は、それなら私にもっと詳細な情報を聞かせてくれないか、と頼んだ。彼はイングランドの有名な元国際主審で、問題のPKの笛を吹いたオリバー主審とも親しいハワード・ウェブに連絡を取ってみる、と言ってくれた。
しかしウェブは当初は取材に応じると言っていたものの、改めて連絡を取ると、今はもう引退した身であり、これまでにあまりに多くのことを見てきたから、これ以上巻き込まれたくないと言って断ってきたという。
ユベントスはこの試合の後、オリバー主審の判定についてUEFAに提訴しようとする動きを見せた。それを知ったマドリーのペレス会長は、すぐにアニエッリ会長に連絡を取り、ユベントスの関係者が審判に近づいて買収しようとしたのを知っている、それを告発してもいいのかと言って逆に脅しをかけた。もちろん、ユベントスもマドリーもその後、UEFAに対して何の提訴も告発も行なっていない。
だが、話はこれで終わったわけではなかった。ユベントスのウルトラスが、どこからかオリバー主審の電話番号を手に入れて、脅迫電話をかけまくるという「狼藉」に出たからだ。問題は、この番号の主は同姓同名の別人だったこと。気の毒なオリバー氏は、連日連夜の電話攻撃に耐えかねてノイローゼになってしまった。
(後編に続く)
文:クラウディオ・デ・カルリ
翻訳:片野道郎
【著者プロフィール】
ミラノの日刊紙『イル・ジョルナーレ』でインテル番を長年務めた敏腕記者。粘り強い取材から引き出したスクープが多く、番記者の間でも一目置かれる存在だ。現在はフリー。58年生まれ。
当事者はともかく、それを聞き知ったマスコミの誰ひとりとしてその件について記事を書かなかった理由はどこにあるのかと、私はその友人に尋ねた。返ってきたのは、唯一それを記事にしたのは、スポーツ部門に力を入れている政治的な新聞『Abc』だけで、それ以外のメディアはすべてマドリーをめぐる「沈黙の掟」に従った、という返事だった。マフィアをめぐるストーリーと同じ展開だ。
私は、それなら私にもっと詳細な情報を聞かせてくれないか、と頼んだ。彼はイングランドの有名な元国際主審で、問題のPKの笛を吹いたオリバー主審とも親しいハワード・ウェブに連絡を取ってみる、と言ってくれた。
しかしウェブは当初は取材に応じると言っていたものの、改めて連絡を取ると、今はもう引退した身であり、これまでにあまりに多くのことを見てきたから、これ以上巻き込まれたくないと言って断ってきたという。
ユベントスはこの試合の後、オリバー主審の判定についてUEFAに提訴しようとする動きを見せた。それを知ったマドリーのペレス会長は、すぐにアニエッリ会長に連絡を取り、ユベントスの関係者が審判に近づいて買収しようとしたのを知っている、それを告発してもいいのかと言って逆に脅しをかけた。もちろん、ユベントスもマドリーもその後、UEFAに対して何の提訴も告発も行なっていない。
だが、話はこれで終わったわけではなかった。ユベントスのウルトラスが、どこからかオリバー主審の電話番号を手に入れて、脅迫電話をかけまくるという「狼藉」に出たからだ。問題は、この番号の主は同姓同名の別人だったこと。気の毒なオリバー氏は、連日連夜の電話攻撃に耐えかねてノイローゼになってしまった。
(後編に続く)
文:クラウディオ・デ・カルリ
翻訳:片野道郎
【著者プロフィール】
ミラノの日刊紙『イル・ジョルナーレ』でインテル番を長年務めた敏腕記者。粘り強い取材から引き出したスクープが多く、番記者の間でも一目置かれる存在だ。現在はフリー。58年生まれ。