「約束」を果たせなかったフロント陣がすべきは?
ウェストハムのフロントは、ファンの9割方が移転に反対していたと伝えられる旧五輪スタジアムを、あたかも「約束の地」のように売り込んだ。
もしも、「約束」通りであれば、スタンドとピッチの距離が気にならないように改装され、今頃は収益増を果たし、ワールドクラスの選手を擁して欧州行きを争える進化の兆しを見せているはず、だった……。
だが実際は、可動式の座席で陸上競技用トラックが隠されても、ピッチは遠く感じられる。ファンはもちろん、記者陣の間でも、ウェストハムの新居を好む意見などは聞いたことがない。
もしも、「約束」通りであれば、スタンドとピッチの距離が気にならないように改装され、今頃は収益増を果たし、ワールドクラスの選手を擁して欧州行きを争える進化の兆しを見せているはず、だった……。
だが実際は、可動式の座席で陸上競技用トラックが隠されても、ピッチは遠く感じられる。ファンはもちろん、記者陣の間でも、ウェストハムの新居を好む意見などは聞いたことがない。
スタジアムの雰囲気と同様に、戦力補強も寂しい限りである。
移転1シーズン目の半ばにディミトリ・パイエが2700万ポンド(約41億円)でマルセイユに去って行ったチームに加わったのは、その4分の1ほどの移籍金でハルからやって来た、ロバート・スノドグラス(現アストン・ビラ)だった。
降格危機が不安視された今冬も、2000万ポンド台の移籍金収入がありながら、完全移籍で確保したのは、プレストン(2部)からジョーダン・ハギルのみにとどまった。
スタンドで実力行使に訴えるかのようなファンの行動を、「愚行」と叩くのは簡単だ。しかし個人的には、警備スタッフに付き添われてスタンドを去ったオーナーよりも、現経営陣の下で、フットボールクラブとしての“ホーム”、そしてウェストハムの一員としてのアイデンティティーを失った心境のファンに同情さえ覚える。
かつてのウェストハムは、降格の危機に瀕したシーズンだろうと、プレミアリーグのステータス以上に大切な集団としての一体感を、最後まで醸し出せるクラブだった。
人間は、誰でも過ちを犯す。ロンドン・スタジアムでの数百名の行動も、その一つだ。ファンが暴力に訴える権利などはない。だが、この2年間で「約束」を果たせなかった経営陣に「アンサー」を求める権利は彼らにもあり、それに対しては明確な答えを示す義務がフロント陣にはあるはずだ。
文●山中忍
【著者プロフィール】
やまなか・しのぶ/1966年生まれ、青山学院大学卒。94年渡欧。イングランドのサッカー文化に魅せられ、ライター&通訳・翻訳家として、プレミアリーグとイングランド代表から下部リーグとユースまで、本場のサッカーシーンを追う。西ロンドン在住で、ファンでもあるチェルシーの事情に明るい。