2つの悲劇とその後の繁栄

カテゴリ:ワールド

サッカーダイジェストWeb編集部

2014年04月11日

2つの悲劇がもたらした消えない悲しみと繁栄

従兄弟がヒルズボロの悲劇の犠牲となったジェラードは、特別な思いを抱きながら、みずからワッペン貼りの作業を行なった。 (C) Getty Images

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 この2つの悲劇が、ユナイテッドとリバプールの両クラブに癒えることのない傷をいまでも残しているのは事実だ。とはいえ、これがクラブ、そしてリーグにもたらしたものも少なくはなかった。

 ユナイテッドは前述したとおり、ミュンヘンの悲劇から立ち直り、いまや世界最高ともいわれる魅力的なクラブに成長した。もちろん、あの出来事がなくてもクラブは繁栄したかもしれない。あの事故さえなければ、当時イングランド史上最高の選手とまでいわれたダンカン・エドワーズを失わずに済んだのだから。しかし、悲劇がクラブとそれに関わる人たちをひとつにし、より高い野心を持たせたのも事実だろう。

 一方、リバプールの場合、その悲劇がイングランド・サッカーの改革を促すものとなった。折しも、85年にユベントス・ファンら39名が死亡した「ヘイゼルの悲劇」のペナルティーとして、リバプールだけでなくイングランド全クラブに対して欧州カップ戦への出場禁止が課せられていた時期、さらにサッカーの母国のイメージを貶めるヒルズボロの悲劇を目の当たりにして、ついにイングランドは改革を断行。そこから誕生したプレミアリーグは、安全性はそれ以前とは比べ物にならないほど増し、その運営スタイルは世界中から真似をされるほどの最先端となり、地に落ちていたイングランド・サッカーは息を吹き返した。

 余談だが、ミュンヘンの悲劇では事故を引き起こしたとして機長のジェームズ・セインが糾弾され、航空業界から追放されたものの、後にミュンヘン空港の滑走路に原因があったことが証明され、その名誉は回復された。ヒルズボロの悲劇でも、当初はリバプールファンが暴徒化したことによる惨事と結論づけられたが、その後の調査によって警察の誘導に不備があったことが事故から23年目に判明し、デイビッド・キャメロン英国首相が遺族に謝罪している。

 悲しみの記憶が消え去ることはない。起こってはならない出来事だった。しかし同時に、これらを糧にした上での現在のクラブ、リーグの繁栄や進歩に、誇り、尊敬、そして先達への感謝の念を禁じ得ないのである。
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