84分にベンチに退く板倉に、５万2000人の大観衆から拍手が送られた。オランダ全国紙の記者は「板倉は素晴らしかった」とそのプレーを称えた。特にテュラムとのマッチアップは秀逸。“絶対に前を向かせない”という思いのこもった、テュラムへの背後からのマークは鉄壁だった。しかしテュラムの動きも絶妙。右CBの板倉を左サイドに引き出し、その裏のスペースをウイングバックのドゥムフリースに提供した囮のプレーには私も唸った。ボルシア・メンヘングラッドバッハ時代の僚友との攻防を板倉は堪能した。

「（インテル戦への思いは）テュラムが一緒にやっていたということもある。彼はいいですね。器用だし、強いし。やっていてすごく楽しかった」

　板倉の言う“器用さ”と“強さ”に加え、テュラムは高く、速く、賢かった。

　フローニンへンからブンデスリーガ２部リーグ時代のシャルケ04、さらに１部リーグのボルシアMGとステップアップした28歳の働き盛りが、あえてオランダリーグに戻ってきた。アヤックスという名門でCLの舞台で戦うこと、そしてオランダリーグ優勝という使命を帯びたプレッシャーの中で責任をまっとうすることを目標に移籍を決断したのは想像に難くない。

「今日は悔しいですけれど、また次に繋がる試合だったかなと、個人的にはすごくいい経験ができました。ここからまたチャンピオンズリーグを経験できるのはプラスなことかと思います。こういう（CLでの）経験が自分を成長させるために間違いなく必要。実際、今日も試合をやってみて『これだ！』じゃないですけれど、チャンピオンズリーグでこういうガチンコの対決ができるのは自分にとってプラス。今後も楽しみです」
 

　CLのアンセムをピッチの上で聞くのは「あの雰囲気は震えますよね。やっぱりリーグ戦と違いますから」と経験豊富な日本代表DFにとっても特別だったよう。

「ワールドカップ優勝と言っているし、本当にここで戦わないといけない。“代表”への思いがとても強いので、だからこそ自分はこういうところで戦わないといけないと思って移籍してきた。今日は負けて悔しいですけれど、試合がどんどん続いていくので、リカバリーして試合、リカバリーして試合――。まずはそこのところに慣らしていかないといけない」

　試合途中の交代が続くが、「全然リスクを負う必要はないということで交代しましたけれど、コンディション的にはだいぶ良くなってきて、今日は最後までやれた。環境の変化とチームの変化、ピッチが変わったりとか（の影響が）いろんなところに出ていたのかな――と思いつつ、大事に至らないところでうまくやれているので、逆に今いい感じで来てます」と完全フィットを宣言した。

　すでにアヤックスの守備の要として高評価を受ける板倉滉。秋の深まりとともに、そのパフォーマンスをさらに上げていきそうだ。

取材・文●中田 徹

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