「勝ったからもういいですけど、『おかしいだろ』とは思った」
もちろん、その時点で2-1のままタイムアップを迎えることを選手も監督もファン・サポーターも知らない。だからこそ、伊藤は激怒した。「スイッチが入っていた」ため、抑えきれぬ激情が審判団へと向かった。
問題の場面は、新潟の攻勢が続く90分だった。野津田から右サイドに張っていた伊藤へボールが渡る。瞬間、少し下がった位置でフォローしようとしていた小林にマテウスが後ろから衝突した。主審はアドバンテージを取るような仕草を見せた。
プレーが続行される。「敵陣でボールをもらった時にいかに仕事ができるかを常に考えている。今日はミスも多かったけど、どんどん仕掛けようと思っていた」という言葉を体現するように、対峙した沼田圭悟が足を出そうとした瞬間に加速して一気に抜き去った。
入れ替わられた沼田がたまらずにファウル。左足が掛かり、抱え込むように左手も出ている。伊藤は大げさな表現ではなく、盛大に転がった。副審が右手に持った旗が上がり、主審の笛が鳴り響いた。
だが、小林へのものか、伊藤へのものか、ハッキリしない。主審は倒れたままの小林のもとへと走った。イエローカードを出す仕草はない。伊藤に火がついた。目の前で見ていた副審へ、食って掛かる。「なぜ!?」と両手を広げてアピール。その対象は主審へ、再び副審へと移った。
倒した沼田は、「奪いに行ったら入れ違ってしまったので……。(直前の84分にイエローカードをもらっていて、2枚目の)カードが出なくて良かった」と、退場しても仕方ないと覚悟していたような口ぶりだった。
収まりがつかなかった伊藤は、90+2分に「熱くなって」、無駄なイエローカードを逆に提示されてしまった。では、実際にあのシーンをどう感じているのか。ひとりになったところを掴まえて訊ねた。
「勝ったからもういいですけど、『おかしいだろ』とは思いましたね。最終的に自分が倒された位置からFKになっているから、それならカードを出していてもおかしくないファウルだった。まぁ、レフェリーが決めることなんで」
途中から冷静になったのか、徐々に表情が柔らかくなっていく。その言葉選び、間に明らかに含みを持たせる伊藤は、「心の中と吐き出した言葉は違いますよ」と言わんばかりだ。
ピッチ内で見せた熱さとは随分とギャップがある。「本当のところはどうなんですか?」とこちらがさらに話を向けると、伊藤はいたずらっ子のような笑みを覗かせた。
取材・文:古田土恵介(サッカーダイジェスト編集部)
問題の場面は、新潟の攻勢が続く90分だった。野津田から右サイドに張っていた伊藤へボールが渡る。瞬間、少し下がった位置でフォローしようとしていた小林にマテウスが後ろから衝突した。主審はアドバンテージを取るような仕草を見せた。
プレーが続行される。「敵陣でボールをもらった時にいかに仕事ができるかを常に考えている。今日はミスも多かったけど、どんどん仕掛けようと思っていた」という言葉を体現するように、対峙した沼田圭悟が足を出そうとした瞬間に加速して一気に抜き去った。
入れ替わられた沼田がたまらずにファウル。左足が掛かり、抱え込むように左手も出ている。伊藤は大げさな表現ではなく、盛大に転がった。副審が右手に持った旗が上がり、主審の笛が鳴り響いた。
だが、小林へのものか、伊藤へのものか、ハッキリしない。主審は倒れたままの小林のもとへと走った。イエローカードを出す仕草はない。伊藤に火がついた。目の前で見ていた副審へ、食って掛かる。「なぜ!?」と両手を広げてアピール。その対象は主審へ、再び副審へと移った。
倒した沼田は、「奪いに行ったら入れ違ってしまったので……。(直前の84分にイエローカードをもらっていて、2枚目の)カードが出なくて良かった」と、退場しても仕方ないと覚悟していたような口ぶりだった。
収まりがつかなかった伊藤は、90+2分に「熱くなって」、無駄なイエローカードを逆に提示されてしまった。では、実際にあのシーンをどう感じているのか。ひとりになったところを掴まえて訊ねた。
「勝ったからもういいですけど、『おかしいだろ』とは思いましたね。最終的に自分が倒された位置からFKになっているから、それならカードを出していてもおかしくないファウルだった。まぁ、レフェリーが決めることなんで」
途中から冷静になったのか、徐々に表情が柔らかくなっていく。その言葉選び、間に明らかに含みを持たせる伊藤は、「心の中と吐き出した言葉は違いますよ」と言わんばかりだ。
ピッチ内で見せた熱さとは随分とギャップがある。「本当のところはどうなんですか?」とこちらがさらに話を向けると、伊藤はいたずらっ子のような笑みを覗かせた。
取材・文:古田土恵介(サッカーダイジェスト編集部)

7月14日発売号のサッカーダイジェストは、内田選手の巻頭インタビューを掲載。それに続く特集は、今夏の注目銘柄と題して話題の選手30人の去就動向をチェック。乾選手、酒井宏選手、植田選手のインタビューに加え、クラブダイジェストでは松本山雅、好評連載中のプロフットボーラ―の肖像では「2008年」の大谷選手を取り上げています。