「これはファイナルだ。一瞬でも集中を切らしてはいけない」

　試合前に、バルサ時代の自分に言って聞かせてやりたいような言葉を口にしていたデンベレは、その言葉通り、最後まで高い集中力を研ぎ澄ませていた。20分に左サイドを突破し、しっかりとタメを作ってから逆サイドのドゥエにラストパスを届けて２点目をお膳立てすると、63分にはヴィティーニャが預けたパスを鮮やかなヒールで落として返し、３点目の起点となる。

　そして──。試合の趨勢がほぼ決まっていた73分、デンベレはあの６年前のセミファイナルで奪えなかったダメ押しの４点目を、華麗なスルーパスで演出するのだ。

「遅刻魔」「汚部屋の住人」「無気力な天才」...。昨夏にキリアン・エムバペ（現レアル・マドリー）が退団し、エースとしての自覚と責任感が芽生えたこともあるのだろうが、かつての素行不良の悪童が数々の失敗を経て、若手中心のパリSGですっかり頼れるチームリーダーになっていた。インテルの豊富な経験に懐柔されず、むしろ若さと勢いで丸のみにしてしまえたのは、大人になったデンベレの存在があったからだと言い切れる。
 

　結局５－０という歴史的な圧勝で、ネイマールやメッシ、そしてエムバペがいた時代にもなしえなかった悲願のCL初制覇を、ついにやってのけたパリSG。リーグ・アン、フランス・カップに続いてのタイトル獲得で、３冠の偉業達成となった。

　世界中から華のあるタレントをかき集め、かつて「金満クラブ」と揶揄されていたクラブが、L・エンリケのもとで90分間走り続け、戦い続けるチームへと変貌を遂げていた。

「疑いの余地がない私のバロンドールだ」

　そう指揮官が絶賛したデンベレに導かれ、パリSGも大人のクラブになったのだ。

文●吉田治良

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