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フロンターレを辞めてツテなく渡米。元川崎スタッフのカナダでの“ぶっ飛んだ”挑戦に見る大きな可能性

カテゴリ:Jリーグ

本田健介(サッカーダイジェスト)

2025年05月20日

カナダ代表の試合にも関わる

カナダで新たな扉を開く。後進に向けても良い例となるだろう。(C)Pacific FC

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 日本を離れて約2年、田代は今、パシフィックFCを軸に活躍の場を広げている。

「クラブではマーケティングコーディネーターという肩書きで、日本で言ったらプロモーションと広報を合わせたような仕事をしています。ユニフォームの売り出し方とか、クラブのブランドに関わるところにも携わります。チケット販売、スポンサー営業以外、クラブから世に発信するものすべてに関係しているイメージですね。

 予算を含め自分でやりたいことをやって良いよという環境なので、僕はやりやすいです。先日もユニフォーム発表をしたのですが、どういう風に世に出し、どうPRするかを自分で企画し、ビデオ、写真を自ら撮ってマネジメントしました。クラブの規模として同じ仕事をしているのは5人くらいしかいないので、みんなで仕事を回している形です。

 仕事は軌道に乗っているのかもしれません。こちらにきて自分でビデオや写真も撮るようになったんです。先日はCONCACAF(北中米カリブ海サッカー連盟)から依頼されてコンペティションの仕事をする機会をいただきましたし、4月からはカナダ代表の試合にオフィシャルビデオとして関わらせてもらうことにもなりました。

 これまでは予算、メンバーなどを考えてプロジェクトを進める側でしたが、できるようになったことは多く、こっちに来た甲斐があったなと。なにせ日本人がやったことのない、情報すらない環境なので、今後の世代につなぐ意味でも、意義があったのかなと感じています。

 あらためて日本人あるいはアジア人がいない環境で、力を試したいという想いは大きかったです。日本代表の選手も今や様々な国で活躍し、経験を持ち帰り、日本代表の強化につなげています。そういった流れは今後のビジネス面、企画、サッカークラブにまつわるブランドみたいな部分でも必要だと思うんです」

 日本代表で海外組が増えた昨今、その変化は今後、クラブスタッフにも波及するのかもしれない。

「日本と海外で大きく違うのは、日本のサッカークラブは親会社がおり、その制度のなかで働く環境になっています。でも海外はすべてがプロフェッショナルで、例えばカナダはサッカー後進国、発展途上国でありますが、僕のボスは(プレミアリーグの)ブライトンで何年か働いてきた人で、トロントFCというチームを立ち上げた人でもあります。サッカークラブは見栄えも大事にしなくちゃいけないという考えも持っており、そこは日本人が苦手とする分野と言いますか、アメリカっぽさ、カナダっぽさが強い世界なので、すごく勉強になります。

 大きいことを話すと、今の日本のサッカー界で、どこか停滞している空気を誰がぶち壊すのかと言えば、外を経験してきた人か他業界の人だと感じます。でもサッカークラブは非常に特殊で、ビジネススキルがあっても他分野の人ではどうしても理解し切れない部分が多い。となると、海外でサッカークラブとしてのノウハウを学んできた人が帰ってきて還元したほうが建設的かなと思っています。今後の50年など先を見据えれば、そうしていくべきなのかなと」

 
 そしてメッセージも口にする。

「クラブの魅力でいうと、カナダは大きな国ですが、パシフィックFCは島のクラブです。スペインのビルバオ、バスク地方っぽいって言ったらあれですが、どんなことに対しても“島のために何ができるか”“島の課題をサッカーチームを使ってどうやって改善するか”という考えが広がっています。それこそ島出身の選手はローカルヒーローになっていくような流れを意図的にクラブ全体でつくっています。

 そういう部分は今まで経験したことがないものですし、ファミリー感が強く、居心地が良いです。サポーターと一緒に飲みに行ったり、草サッカーを見に行ったり、ウェルカムな空気は嬉しいですね。クラブスタッフに日本人がこれだけ増えるとはまったく予想していませんでしたが(現在は4人が勤務)、カナダと日本をつなぐ高尾さんの活動はすごく尊いものだと感じます。ある意味、僕も高尾さんの作品のひとつですから。

 一方で、安直にパシフィックFCには日本人がいるから、自分たちもいけるんじゃないかっていう考え方は危険かもしれません。それぞれの方々の生き方として面白いか面白くないかということが大事で、前例があるのはすごく良いことだと思いますが、その前例に何を感じ、自分で何をしたいのかを考え、自分に適した国で挑戦することが大切だと思います。

 自分自身も先ほど話したカナダ代表での活動は、ある意味、次の章、次のチャプターという感覚で、パシフィックFCというローカルチームから、また違う環境に挑戦することになるので楽しみです」

 田代をカナダへと導いた高尾は「意志あるところに道は通じる」と話していた。まさにその通りで、田代も勇気を持って飛び込んだからこそ、今がある。先日にはForbes JAPANの「NEXT 100」にも選出された。

 世界を知り、いつかは日本にその経験を還元してくれる日も楽しみである。

 実際に、前述したように、昨年末の中村憲剛引退試合では久々に日本で活動し、豊富なアイデアも形にした。

「(天野さんとも)2年ぶりくらいに一緒に仕事をさせてもらいました。ケンゴさんの街頭演説や、スタジアムの演出の一部、前夜祭での企画など、天野さんとの分業でやらせていただきました。

 天野さんから受けた影響は大きいです。話題になる方程式はある程度はあると思うんですが、その企画が理にかなっているか、何かにつながるのか、という考えも川崎時代に学ばせてもらいました。天野さんは企画を練るなかで、地域性、社会性といった項目を考えるんです。

 例えばケンゴさんの街頭演説もXのトレンドに入ったりしましたが、あれも地域性を第一に考えた企画です。今の日本では選挙のパロディが話題をつくることができるとは感じますが、街に対してなにかを説得するというところで一番強いフォーマットが選挙だと思い、あの企画を選びました。ただの話題先行ではなく、前職時代からみんなで共有できている前提があったから企画を進めることができたと思うんです。それと引退試合を前にケンゴさんが街に出てこないのもなんだか気持ちが悪いという想いもありました。フロンターレの企画ってふざけているようで、考え抜かれている。だから物語が続いていく感覚があるんです」

 ちなみに今後に向けては「JFA・日本サッカー界の方から連絡をもらえたら嬉しいですね。アイデアはたくさんあります。日本に還元したいですね」とも笑顔で話す。

 多くの選手が海を渡るようになったなか、クラブスタッフも外の世界を知る人が増えれば日本のサッカーはより発展するに違いない。

 遠くカナダの地で奮闘する男たちの姿は、きっとこれからのサッカー界につながっていくはずだ。それこそ、アメリカ・カナダ・メキシコで共催される2026年のワールドカップにも陰ながらその姿があるのかもしれない。

※敬称略

(全2回/2回目)

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取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)
 
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