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フットボールジャーナリズムにはびこるナンセンスな日常【サイモン・クーパーが最後に綴る物語|中編】

カテゴリ:ワールド

サイモン・クーパー

2024年03月31日

ウクライナで最大の失望を経験した

 記者会見はもっとひどい。

 2012年、ウクライナのドネツクで僕は最大の失望を経験した。その時はEURO2012が開催中で、イングランド代表監督のロイ・ホジソンと主将のスティーブン・ジェラードが試合前日会見を行なった。とくに紙媒体のメディアは危機的状況にあったにもかかわらず、西欧メディアの数百人が莫大な経費をかけて東の果てまで駆けつけていた。

 会見が行なわれた30分間、主役ふたりの口から出てきたのは決まり文句だけだ。そして試合後にはいつもと同じことがミックスゾーンで繰り返され、誰もが似通ったマッチレポートを書いた。その1年10か月後、ロシアが初めてドネツクに侵攻した際、現地を訪れた西欧の記者は極端に少なかった。

 この種のジャーナリズムは僕が望むものではなかった。他の人と同じことを書くことに一体なんの意味があるのだろう。それは自分が代替可能な存在ということを自ら証明していることになる(今日ではそれはAIによって証明されつつある)。

 選手や監督と話すことにあまりに多くの時間を費やすと、常套句と間抜けさの海で溺れることになってしまう。フットボールジャーナリズムにはびこるナンセンスな日常に、僕はある意味で失望してしまった。

【後編】に続く

文●サイモン・クーパー 翻訳●豊福 晋

著者紹介/ヨーロッパを代表する著述家。英経済紙『フィナンシャル・タイムズ』などで健筆を振るう。スポーツを人類学的見地から考察する新たなジャンルを切り開き、1994年、サッカーの裏側に迫ったエポックメーキングな名著『サッカーの敵』を上梓し、ウィリアム・ヒルが主催する「スポーツ・ブック・オブ・ザ・イヤー」を獲得した。ウガンダ生まれのイギリス人で、オランダ、アメリカ、スウェーデン、ジャマイカで育ち、イギリスとアメリカで教育を受けた、ワールドワイドなバックグラウンドの持ち主だ。1969年生まれ。

※『ワールドサッカーダイジェスト』2024年1月18日号の記事を加筆・修正
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