――たくさんの取材を受けてきたかと思いますが、改めて聞かせてください。オリンピックのメダリストが、あえて新しい競技にチャレンジするきっかけは何だったのしょうか?
「かなり前からモーグルのナショナルチームのトレーナーから誘われていたんです。甘くない世界だろうと2年くらいお断わりしていたんですが、なおも『お前ならいける』と、熱心な誘いがあって。そこまで信じてもらえるなら、と思うようになりました」
――そのトレーナーの方は、競輪と関わりのあった方なのですか?
「多くのトップアスリートを担当されていたのですが、競輪のS級選手もみていらっしゃいました。僕の筋肉の付き方、身体を触った感じで『競輪をやってみないか』と」
――モーグルのトレーニングで自転車に乗ることもありますよね?
「そうですね。ロードバイクにはよく乗っていて、好きだな、楽しいな、とは思っていました。そして昨年、トレーナーから師匠を紹介してもらって、ますます自転車の魅力を感じました」
――どういうところに魅力を?
「基礎体力はあると思っていたのにまったく歯が立たなかったんです。本当に悔しくて、闘争心がメラっと。それとやっぱりスピード感ですね。この自転車でどこまで速くなれるのだろうと、思うようになりました」
――自信はあったのですか?
「自信とは違います。ひとつの競技を極めることが、どれほどたいへんか知っているつもりですし、競輪はモーグルより人口が多いですから、なおさらです。その中でどこまでいけるのか、チャレンジしてみたい、という気持ちの方が大きいですね」
――今年2月のフリースタイルスキー世界選手権に出場して、4月に入学を発表されました。競輪選手を目指そうと決めたのはいつ頃ですか?
「昨年のオリンピックの前です。平昌でどんな成績でも、ここに来ることは決めていました。そのことはごく近い人にしか話していませんでした」
――話したときの周囲の反応は?
「家族は甘くない世界だよ。でも、悔いのないようにと、釘を刺しつつも見守ってくれました。仲間は大智らしいねって。反対はされませんでした」
――それでも、競輪の世界へ飛び込むのは難しい決断だったのでは?
「あとからやっておけばよかったと後悔だけはしたくなかった。だったら今しかないと、決断しました」
――たくましい太ももをされていますが、モーグルで培ってきたものは、競輪にも役立つのでしょうか?
「体幹と股関節が、うまく使えてきているイメージはあります。バランス感覚など基礎はできていると思うので、あとは自転車の乗り方なのかな」
――じっくり自転車を乗り込んできた候補生とは差を感じますか?
「経験がまだまだ足りない。ペダリング、回転力、タイミングなど課題はさまざまで、筋力があるのに、それを生かし切れていない。タイムが伸びてこないので毎日、悩んでいます」
――原さんのように特別選抜試験で入ってきた選手は、コツをつかめば、グッと伸びるとも言われています。
「そう信じています。ただ、改めて、競輪はパワーだけじゃないと感じています。早く回せばいいわけでもない。何か小さなきっかけで1秒速くなったりもするし、本当にもどかしいです。同じ道具を使うスポーツですが、モーグルよりも難しいかもしれません」
――モーグルも相当難しいですよ。身体能力だけは勝てませんし。
「技術の差が勝敗を分けるから、競技としておもしろいのだと思います。技術を追求するのは難しいことですが、だからこそ選手は苦しくても、楽しいのだと思います」
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