広島に０-２でリードされた38分、相手の意表を突いて左サイドに流れた遠藤保仁のピンポイントクロスに思い切り飛び込み、頭を合わせたのが、シーズン途中に加入したブラジル人助っ人のパトリックだった。
 
「まず１点を取らないといけないと思っていたので、ずごく大事な得点だった。ヤットからいいボールが来たんで、頭を合わせただけ」と彼は淡々と語ったが、相手に与えたダメージは大きかった。
 
　昨季後半、甲府でともにプレーした柏好文も「パトリックはフィジカルも強いし、走力もあるし、ヘディン力もある。ガンバへ行ってより力強さが際立つようになった。そのFWのチャンスボールになるクロスを簡単に上げさせてしまった。ちょっとの寄せが足りなかった」と悔しそうに話していた。
 
　後半の２得点にもパトリックが絡んだ。宇佐美貴史の左クロスに合わせた54分の同点弾は、阿部浩之の鋭い走りというお膳立てがあったものの、ここぞという決定機を逃さなかった。そして71分の大森晃太郎の３点目もパトリックの強烈シュートが呼び水になった。
 
「２点のビハインドでも諦めない気持ちで戦ったのが良かった。ガンバというチームは能力が高いし、最後まで勝てると信じていた」とMVPに輝いたパトリックは笑顔を見せた。
 
　G大阪に加入するまでは、ストライカーとしてそこまでの存在感はなかったと言える。2013年シーズン初頭に加入した川崎では、リーグ戦８試合で２得点と不本意な結果に終わり、夏からは甲府へ移籍した。その甲府では16試合・５得点と数字は多少なりとも上向いたが、契約延長には至らなかった。
 
　そして、一度はブラジルのセリエC（３部リーグ）のフォルタレーザで出直す羽目になる。再び日本に戻ってくることができたのは、長谷川健太監督が「前に引っ張るタイプの外国人FWが欲しい」と白羽の矢を立てたからだ。
 
「川崎の時は正直、そこまでチャンスがなかった。出場機会もあまりなかったし、自分の特徴であるパワーや前に引っ張れる部分をもうちょっと監督に生かしてもらえたら良かったけど……。
　甲府の時は自分の特徴を生かしてもらっていたけど、チームが守備的だったので、１トップで孤立することが多く、得点が伸びなかった。でもガンバでは監督も選手も僕を信頼してくれて、自分のよさである前へのスピードを生かしてくれる。
　ヤット、宇佐美、今野（泰幸）のような素晴らしい選手たちがいて、言葉を交わさなくても、僕がどういうタイミングで飛び出すかを感覚的に察知してボールを出してくれる。それはすごく大きいと思います」
 
　そう本人はしみじみと語っていたが、Jリーグで３チーム目となるG大阪で自分らしさをより発揮できる環境に恵まれたのが、ここまでのリーグ戦16試合・８得点、ナビスコ決勝MVPという好結果につながっている。
 
　パトリックがいることで、G大阪はセットプレーからの得点が伸び、遠藤という優れたプレースキッカーの輝きも増している。G大阪がワールドカップ中断期間以降、目覚ましい快進撃を見せたのも、彼の加入が非常に大きいのだ。
 
「僕は日本が好きだし、G大阪が大好き。少しでも多くゴールを奪ってチームの勝利に貢献したい。Jリーグも天皇杯も残っている。自分の特徴を生かして頑張りたい」と強調するように、G大阪にはこの先も重要な試合が続いていく。
 
　11月22日には浦和とのJ１天王山、26日には清水との天皇杯準決勝がある。これらのビッグマッチで結果を残せば、彼自身の評価もまた一段と上がるはずだ。
 
　かつてG大阪には、アラウージョ（ゴイアス）やバレー（天津泰達）、マグノ・アウベス（セアラーSC）といった、他のJクラブから加入し、大ブレイクを果たしたブラジル人選手が何人もいた。その系譜をパトリックも継ぐことになる可能性は大いにあるだろう。
 
取材・文：元川悦子