物議を醸す生え抜きの放出 ウェルベック売却の是非を【マンU番記者】が問う

カテゴリ:メガクラブ

マーク・オグデン

2014年10月16日

伝統が音を立てて崩れた瞬間との声も。

ウェルベックの売却は是か非か。伝統の破壊とも言われた生え抜きの放出を、番記者が改めて考察する。 (C) Getty Images

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 260億円相当の巨費を投じた今夏の大型補強の裏で、ユナイテッドは9歳から在籍していた生え抜きのダニー・ウェルベックを放出した。ルイス・ファン・ハール新監督は、「余剰人員」と見なしたのだ。
 
 ウェルベックはあと1か月ほどで24歳と、選手としてこれから脂が乗ってくる年齢。しかも、「イングランド代表」に「ホームグロウン(自国育成)」という“付加価値”が付いている。それをユナイテッドは、わずか1600万ポンド(約27億2000万円)でライバルのアーセナルに譲渡した。この移籍金額は市場価格を大きく下回るバーゲンプライスだ。
 
 なにより、「生え抜き」をあっさり手放したその事実が物議を醸した。
 
 人材育成は、脈々と受け継がれるユナイテッドの伝統だ。アカデミーで同じ釜の飯を食った「92年組」、デイビッド・ベッカム、ポール・スコールズ、ガリーとフィルのネビル兄弟らが中心となって成功を謳歌したのが、1990年代後半から2000年代にかけての黄金期だ。最近は陰りが見えてきたとはいえ、いや、それだからこそアカデミーが輩出した近年の最高傑作と評判だったウェルベックの放出は、衝撃が小さくなかった。伝統が音を立てて崩れた瞬間だと、そんな声も上がった。
 
 ファン・ハールは説明した。
「ダニーは9歳からこのクラブにいた。サンダーランドへのレンタル移籍を経て、3シーズンここでプレーした。だが、ロビン・ファン・ペルシやウェイン・ルーニーほどゴールを奪ったわけではない。彼らの記録が、すなわちユナイテッドのスタンダードだ。ラダメル・ファルカオが加わったうえに、さらに若手がプレーするためのポジションも確保しなければならない。それゆえ、ウェルベックの放出を決めた。私を説得する機会は十分に与えた」
 
 ウェルベックのユナイテッドでの成績は、142試合で29ゴール。約5試合に1点という得点率はたしかに低いが、スタメンでプレーする機会が限られ、しかもウイングでの起用が少なくなかった点を考慮すれば、一概に悪い成績とは言えない。
 
 批判の声を上げた急先鋒は、アレックス・ファーガソンの下で助監督を務めたマイク・フィーランだ。
「マンチェスター・ユナイテッドは、若手育成のアイデンティティーを失った。育成よりも、買うことに執着しているようだ。ダニー・ウェルベックのような選手がクラブの存在意義だったが、それが壊れてしまった」
「昨今のフットボール界の例に漏れず、マンチェスター・ユナイテッドも新たな道を進んで行くということなのだろう。だが、将来よりも今だけを見つめるのが、はたして得策なのか。ユースのタレントはクラブの未来を映す鏡でもある。それゆえ、育成を怠ってはならない」
 
 その一方で、ファン・ハールを擁護する意見もある。同じくクラブOBのキース・ギレスピーは、「フィーランに『ウェルベックとファルカオがチームにいたら、どちらを先発に選ぶか?』と質問してみたい。ユナイテッドの伝統は、スカッドを高いレベルで維持することにあるはず」だとし、ウェルベックは力不足だったと断じた。
 ウェルベックにそこまでのクオリティーはなかったという厳しい意見は、実は少なくない。
 
 論争が繰り広げられるなか、アーセナルのウェルベックはチャンピオンズ・リーグのガラタサライ戦でハットトリックをマークした。放出反対派を勢いづかせる出来事だったが、ゴールから遠ざかれば放出賛成派が盛り返すだろう。
 
 いずれにしても、ユナイテッドが強化方針を大きく変えたのは事実だ。クラブは今後、どんな道を歩んでいくつもりなのか。それは、次の移籍市場で垣間見えるはずだ。
 
【記者】
Marc OGDEN|Daily Telegraph
マーク・オグデン/デイリー・テレグラフ
英高級紙で最大の発行部数を誇る『デイリー・テレグラフ』のユナイテッド番を務める花形で、アレックス・ファーガソン前監督の勇退をスクープした敏腕だ。他国のサッカー事情に通暁し、緻密かつ冷静な分析に基づいた記事で抜群の信頼を得ている。
【翻訳】
田嶋康輔
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