ルヴァンカップ２節、ホームFC東京戦。スタメンに名を連ねた仙台のMF梁勇基が16分、チームを勢いづかせる先制ゴールを叩き込む。
 
　相手のビルドアップを富田晋伍がカットした瞬間、前方にいる梁は身体を前向きにしてスタンバイ。そこに富田からパスを届くと、右足のアウトサイドで丁寧にトラップ。ボールを止めるというより、そのまま軽く転がしてシュート態勢に入り、狙いすました一撃で逆サイドのネットを射抜いた。
 
　梁にとって、これが今季公式戦初ゴールだ。チームはその後、長沢駿が加点して前半だけで２点のリードを奪う。後半はFC東京の反撃を１点に抑えて、前節の鳥栖戦（３-１の勝利）に続き、連勝を飾った。
 
　その鳥栖戦でも先発していた梁だが、３節を終えたリーグ戦はいずれも途中出場。「最初から出ないと。個人的にはリズムを出しづらいというか。まあ、スタメンで出たいという想いは常にあります」と、レギュラー奪取への意気込みを口にする。
 
　今季でプロ生活16年目。04年の加入以来、仙台一筋でプレーするバンディエラは、37歳となった今も、ピッチに立てば精力的なプレーを見せている。
 
　意識しているのは、サッカーを楽しむことだ。「厳しいなかでも、サッカーを楽しみたい。楽しんでいる時は、たぶん、自然と良い動きをしているし、良いプレーを出せていると思う」。深く考えすぎずに、サッカーと向き合う。「いろんな戦術とかあるけど、それにとらわれすぎず、自分の感覚を信じて」プレーすることを大事にする。
 
　中盤のポジション争いは熾烈を極めるが、「コンディションをしっかり保ってやれれば、全然できる自信はある」と力強く言う。いかに良い状態をキープできるか。「あんまりいろんなところにベクトルを向けて、大事な部分が疎かになっても嫌やし。シンプルに、良いコンディションを保って、自分らしくプレーするっていう部分に集中しています」。
 
　まだまだ現役に強いこだわりがある。昨季は小笠原満男をはじめ、中澤佑二、川口能活、楢﨑正剛、森﨑和幸、兵働昭弘、河合竜二、平川忠亮ら錚々たる顔ぶれが引退した。仙台で長く一緒にプレーした菅井直樹もスパイクを脱いだ。だが梁は「そういう流れに流されたくないっていう部分は、もちろんある」と抗おうとする。年齢的な部分は意識せざるを得ない。「だからこそ、自分にしかできへんこと、このチームで貢献できることを探りながら」日々を過ごしている。
 
　モチベーションはすこぶる高い。自分が必要とされるように、ピッチ外で求められることにも気を配りながら、「かつパフォーマンスも良いものを見せる」。
 
　開幕から間もない３月某日、試合後の短い時間ではあったが、梁を取材する機会に恵まれた。約半年ぶりぐらいだろうか。元気ですか？ と訊けば、「元気ですよ」と笑顔で応じる。そんなの当たり前でしょ、といったテンションで。
 
　派手なプレーは少ないかもしれないが、どんな状況下でも、当たり前のことを当たり前にこなしてみせる。つまらないミスが極端に少ない。フリーでも、相手に寄せられていても、正確にトラップし、正確にパスを通す。それがどれだけチームの助けになっているか。
 
　熟練の技を、飽くなき情熱でサッカーを楽しむ姿を、もっともっと見ていたい。
 
取材・文●広島由寛（サッカーダイジェスト編集部）