ペレグリーニは願ってもない監督だった。
サミア・ナスリがフランス代表の招集メンバーから外れた。3月5日の親善試合、オランダ戦に呼ばれなかったのが、シティのチームメイトやファンにとって驚きのニュースだったのは、精彩を欠いた過去2シーズンの不調から脱し、ここまで好調を維持していたからだ。
ナスリが燻っていたのは、昨シーズンまで指揮を執ったロベルト・マンチーニ前監督と反りが合わなかったからだ。マンチーニが続投していれば、ナスリは今シーズン、別のチームのユニホームを着ていたはずだ。冒険を好まない、現実的なイタリア人指揮官の志向に、フランス人MFは馴染めなかった。
両者の亀裂を深めたのが、昨シーズンのニューカッスル戦後に発したマンチーニの一言だ。その試合で活躍したナスリについて、
「今日は良かったが、パフォーマンスは安定しない。殴ってやりたいと思う時もある」
そう言い放ったのだ。冗談交じりだったとはいえ、言われたほうには気持ちのいい言葉ではない。これで2人の関係は事実上破綻した。
プレーがそうであるように、繊細さと傲慢さを内包するナスリに適しているのは、包容力のある父親のような指揮官だろう。そう、マンチーニではなく、マヌエル・ペレグリーニのような監督だ。
60歳のチリの知将は人心掌握に長けている。かつて師事したある選手は、ペレグリーニのためなら喜んで戦場に赴くと、そう話すほどだ。選手に自信を与える巧みな言葉に加えて、ペレグリーニが好むのは攻撃的なポゼッションフットボールだ。ナスリにとって願ってもない監督だった。
理想の上司を得る一方で、ナスリ自身、心を改めた。代理人や周囲の親しい人間と真剣に話をして、このまま才能を浪費させてはいけないと、そう自省したのだ。こうして生まれ変わったナスリは、ここまでハイパフォーマンスを続け、先のリーグカップ決勝ではスーパーゴールを決めてチームにタイトルをもたらした。右足アウトサイドでダイレクトに叩いた56分の勝ち越しゴールは、ハイライト集に残るような鮮やかな一撃だった。
オランダ戦への招集を見送ったフランス代表のディディエ・ディシャン監督には、悪いイメージが残っていたのだろう。昨年11月のワールドカップ欧州予選プレーオフ、ウクライナ戦でまるで機能しなかったナスリのその姿が、脳裏に焼きついていたのかもしれない。
はたして、ナスリは本大会に招集されるのか。最高の選手たちが競い合う最高の舞台が、ワールドカップだ。生まれ変わったナスリは、その舞台に上がる権利を取り戻したはずだ。
【記者】
Stuart BRENNAN|Manchester Evening News
スチュアート・ブレナン/マンチェスター・イブニング・ニュース
マンチェスターの地元紙『マンチェスター・イブニング・ニュース』のフットボール記者で、2009年から番記者としてシティに密着。それまではユナイテッドを担当し、両クラブの事情に精通する。
【翻訳】
松澤浩三
ナスリが燻っていたのは、昨シーズンまで指揮を執ったロベルト・マンチーニ前監督と反りが合わなかったからだ。マンチーニが続投していれば、ナスリは今シーズン、別のチームのユニホームを着ていたはずだ。冒険を好まない、現実的なイタリア人指揮官の志向に、フランス人MFは馴染めなかった。
両者の亀裂を深めたのが、昨シーズンのニューカッスル戦後に発したマンチーニの一言だ。その試合で活躍したナスリについて、
「今日は良かったが、パフォーマンスは安定しない。殴ってやりたいと思う時もある」
そう言い放ったのだ。冗談交じりだったとはいえ、言われたほうには気持ちのいい言葉ではない。これで2人の関係は事実上破綻した。
プレーがそうであるように、繊細さと傲慢さを内包するナスリに適しているのは、包容力のある父親のような指揮官だろう。そう、マンチーニではなく、マヌエル・ペレグリーニのような監督だ。
60歳のチリの知将は人心掌握に長けている。かつて師事したある選手は、ペレグリーニのためなら喜んで戦場に赴くと、そう話すほどだ。選手に自信を与える巧みな言葉に加えて、ペレグリーニが好むのは攻撃的なポゼッションフットボールだ。ナスリにとって願ってもない監督だった。
理想の上司を得る一方で、ナスリ自身、心を改めた。代理人や周囲の親しい人間と真剣に話をして、このまま才能を浪費させてはいけないと、そう自省したのだ。こうして生まれ変わったナスリは、ここまでハイパフォーマンスを続け、先のリーグカップ決勝ではスーパーゴールを決めてチームにタイトルをもたらした。右足アウトサイドでダイレクトに叩いた56分の勝ち越しゴールは、ハイライト集に残るような鮮やかな一撃だった。
オランダ戦への招集を見送ったフランス代表のディディエ・ディシャン監督には、悪いイメージが残っていたのだろう。昨年11月のワールドカップ欧州予選プレーオフ、ウクライナ戦でまるで機能しなかったナスリのその姿が、脳裏に焼きついていたのかもしれない。
はたして、ナスリは本大会に招集されるのか。最高の選手たちが競い合う最高の舞台が、ワールドカップだ。生まれ変わったナスリは、その舞台に上がる権利を取り戻したはずだ。
【記者】
Stuart BRENNAN|Manchester Evening News
スチュアート・ブレナン/マンチェスター・イブニング・ニュース
マンチェスターの地元紙『マンチェスター・イブニング・ニュース』のフットボール記者で、2009年から番記者としてシティに密着。それまではユナイテッドを担当し、両クラブの事情に精通する。
【翻訳】
松澤浩三