【W杯 決勝展望|アルゼンチンの視点】闘志に火をつけ、アイデンティティーを貫け

カテゴリ:国際大会

ディエゴ・ラトーレ

2014年07月13日

逆境に追い込まれてこそ力を発揮するのがアルゼンチン人の真骨頂。

メッシ(左)が牽引する攻撃陣ではなく、むしろ弱点だった守備陣が原動力に。その中心がマスチェラーノ(右)だ。 (C) Getty Images

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 今大会のアルゼンチンは、4試合計390分間の戦いを経て、アイデンティティーを確立した。皮肉にもきっかけは、主砲クン・アグエロの負傷だった(ナイジェリアとのグループリーグ最終戦で左大腿部を痛め前半38分に退く)。
 
 このアクシデントによって、最大の売りだった「クアトロ・ファンタスティコス(ファンタスティック・フォー)」は解体を余儀なくされた。だが、それと引き換えに攻守のバランスを手に入れたのだ。
 
 延長戦にもつれ込んだスイスとの死闘を制してベスト8進出を果たすと、アレハンドロ・サベーラ監督が外科医のような正確さで戦術にメスを入れる。準々決勝のベルギー戦に用意したのは、ダブルボランチの4-2-3-1。このシステム変更でチームは見違えるようにソリッドになり、安定してゲームをコントロールできるようになったのである。
 
 大会前にもっとも懸念されていた弱点が、守備の脆弱さだった。それが堅牢な守備を武器に決勝まで勝ち上がったのだから、分からないものだ。ともあれサッカーでは、チームの機能性が向上すればおのずとプレー内容は良くなるもので、これは必然の結果と言える。
 
 いずれにしても最大のキーポイントとなったのが、チームのプレースタイルを定義するうえでもっとも重要な役割を果たすと私が考える中盤の底に、2人の守備的MFを配した指揮官の戦術的転換だ。
 
 ダブルボランチは、イニシアチブを握る攻撃志向の強いスタイルを好む私のサッカー観に反するが、ルーカス・ビグリアがハビエル・マスチェラーノとコンビを組んだベルギー戦以降、中盤の守備力が大幅に向上したのは紛れもない事実だ。
 
 そのベルギー戦では、アグエロに続いてクアトロ・ファンタスティコスのひとり、アンヘル・ディ・マリアが負傷で退場した。攻撃の主軸を2人同時に失うのは致命的だ。しかしアルゼンチンは、この試練を乗り越えた。
 
 逆境に追い込まれてこそ力を発揮するのはアルゼンチン人の真骨頂であり、私を含めたメディア関係者も、大会期間中に愛する仲間を2人も失う悲劇(※)に見舞われながら、懸命にブラジルで取材活動を続けている。
 
 人が真価を試されるのは、窮地に立たされたその時だ。仕事への情熱、目標達成への意欲といった精神力をそこで示すことができるのが、本当の強さである。チームスポーツであるサッカーは、グループを構成するメンバー全員でその力を共有し、そして体現する必要がある。
 
 決勝の相手はドイツ。この大会でもっとも素晴らしいサッカーを見せているチームだ。ゼロトップとワントップを巧みに使い分け、試合展開に応じて自在に戦い方を変えられる戦術的柔軟性を持ち合わせている。アルゼンチンに必要なのは、手にしたアイデンティティーをあくまで貫き、自分たちの力を100パーセント出すことだ。
 
 下馬評ではドイツが優位だ。アルゼンチンにとって間違いなく今大会で最大の試練である。しかし、私は確かな手応えと自信を持って決勝戦に挑む。すべての同胞が同じ思いでいるはずだ。なぜなら、ひとたび闘志に火がつけば無類の力を発揮する「アルゼンチン人スピリッツ」を、選手たちが必ずや体現してくれると、そう信じているからだ。
 
(※)マリア・ソレダ・フェルナンデスとホルヘ・トポ・ロペスという2人のサッカー記者が、大会期間中に交通事故で亡くなった。マリアの父ミゲル・ティティ・フェルナンデスはアルゼンチンを代表する記者で、ラトーレにとっては『TVプブリカ』の同僚でもある。
 
考察・分析:ディエゴ・ラトーレ
取材・構成:ロベルト・マルティネス
翻訳:下村正幸
 
【ディエゴ・ラトーレ】
現役時代は「マラドーナ2世」と呼ばれた名手で、ボカ・ジュニオルスではガブリエル・バティストゥータと強力FWコンビを形成した。アルゼンチン代表として1991年のコパ・アメリカ優勝を経験。イタリア、スペイン、メキシコのクラブを渡り歩き、2006年に現役を引退。解説者に転身し、テレビのコメンテーターやコラムニストとして幅広く活躍中だ。的確な分析力で、アルゼンチンのみならず南米全土で高い評価を受ける。スペインの高級紙『エル・パイス』にも定期的にコラムを寄稿する。69年8月4日生まれ。
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