優勝するには賢さも必要だろう。
チェルシー戦の敗北は、24年ぶりのリーグ制覇に黄信号を灯した。
それまで11連勝と破竹の勢いで、優勝への道筋は出来上がっていると、そう思われたのだが……。リバプールの“バブル”は、チェルシーの鉄壁の守備の前に、はかなく弾け散ったのだった。
これで断然有利な立場となったのは、マンチェスター・シティだ。残り3試合(29節アストン・ビラ戦が未消化で5月7日に開催)に全勝すれば、王座奪還がほぼ間違いない。シティが3連勝、リバプールが2連勝でシーズンを締めくくれば、ともに勝点86で並ぶ。だが、得失点差でシティが上回っており、よほどの大勝、大敗がないかぎり、リバプールの逆転は不可能だ。
リバプールにとって最後の望みの綱は、宿敵エバートンだ。5月3日の36節でエバートンがシティから勝点を奪えば、リバプールにふたたび自力優勝の可能性が浮上する。「青の隣人」に望みを託すとは、皮肉なものだ。
チェルシーに負けてから、ブレンダン・ロジャース監督は選手たちのモチベーションをもう一度引き上げるために必死だった。今シーズンの躍進はすでに偉業と言える。チャンピオンズ・リーグの出場権を得たそれだけでも大成功だ。優勝の可能性が完全に消えたわけではないと、そう繰り返し言い聞かせた。
それにしても、だ。守備一辺倒のチェルシーにはがっかりさせられたし、大きなフラストレーションを感じた。ラインをひたすら下げ、10人で守りつづけるその姿は、とても優勝を争うチームには見えなかった。
苦言ついでに付け加えれば、チェルシー側の時間潰しを黙認したマーティン・アトキンソン主審もいかがなものか。その見識を疑わないわけにはいかない。アトキンソンは何度も腕の時計を止める仕草をしたが、彼がすべきはイエローカードを出すことだった。
敵将ジョゼ・モウリーニョは、自軍のディフェンシブなパフォーマンスをあたかも芸術のように褒めちぎりながら、それに批判的な向きに腹を立てていた。このポルトガル人はお忘れだろうか。超守備的に振る舞ったウェストハムを、「19世紀のフットボール」とこき下ろした自分を。
とはいえ、リバプールも経験不足を露呈した。引き分けでもよかった試合で、それまでと変わらずリスクを冒して攻めに出た。スタイルを崩したくないという、ロジャース監督の信念は痛いほどわかるが、優勝するには賢さも必要だ。
いずれにしても、リバプールはまだ首位に立っている。残り2試合、前を向いて、とにかく戦い抜くしかない。ロジャースは、希望を捨ててはいない。
【記者】
James PEARCE|Liverpool Echo
ジェームズ・ピアース/リバプール・エコー
地元紙『リバプール・エコー』の看板記者。2000年代半ばからリバプールを担当し、クラブの裏の裏まで知り尽くす。辛辣ながらフェアな論評で、歴代の監督と信頼関係を築いた。
【翻訳】
松澤浩三
それまで11連勝と破竹の勢いで、優勝への道筋は出来上がっていると、そう思われたのだが……。リバプールの“バブル”は、チェルシーの鉄壁の守備の前に、はかなく弾け散ったのだった。
これで断然有利な立場となったのは、マンチェスター・シティだ。残り3試合(29節アストン・ビラ戦が未消化で5月7日に開催)に全勝すれば、王座奪還がほぼ間違いない。シティが3連勝、リバプールが2連勝でシーズンを締めくくれば、ともに勝点86で並ぶ。だが、得失点差でシティが上回っており、よほどの大勝、大敗がないかぎり、リバプールの逆転は不可能だ。
リバプールにとって最後の望みの綱は、宿敵エバートンだ。5月3日の36節でエバートンがシティから勝点を奪えば、リバプールにふたたび自力優勝の可能性が浮上する。「青の隣人」に望みを託すとは、皮肉なものだ。
チェルシーに負けてから、ブレンダン・ロジャース監督は選手たちのモチベーションをもう一度引き上げるために必死だった。今シーズンの躍進はすでに偉業と言える。チャンピオンズ・リーグの出場権を得たそれだけでも大成功だ。優勝の可能性が完全に消えたわけではないと、そう繰り返し言い聞かせた。
それにしても、だ。守備一辺倒のチェルシーにはがっかりさせられたし、大きなフラストレーションを感じた。ラインをひたすら下げ、10人で守りつづけるその姿は、とても優勝を争うチームには見えなかった。
苦言ついでに付け加えれば、チェルシー側の時間潰しを黙認したマーティン・アトキンソン主審もいかがなものか。その見識を疑わないわけにはいかない。アトキンソンは何度も腕の時計を止める仕草をしたが、彼がすべきはイエローカードを出すことだった。
敵将ジョゼ・モウリーニョは、自軍のディフェンシブなパフォーマンスをあたかも芸術のように褒めちぎりながら、それに批判的な向きに腹を立てていた。このポルトガル人はお忘れだろうか。超守備的に振る舞ったウェストハムを、「19世紀のフットボール」とこき下ろした自分を。
とはいえ、リバプールも経験不足を露呈した。引き分けでもよかった試合で、それまでと変わらずリスクを冒して攻めに出た。スタイルを崩したくないという、ロジャース監督の信念は痛いほどわかるが、優勝するには賢さも必要だ。
いずれにしても、リバプールはまだ首位に立っている。残り2試合、前を向いて、とにかく戦い抜くしかない。ロジャースは、希望を捨ててはいない。
【記者】
James PEARCE|Liverpool Echo
ジェームズ・ピアース/リバプール・エコー
地元紙『リバプール・エコー』の看板記者。2000年代半ばからリバプールを担当し、クラブの裏の裏まで知り尽くす。辛辣ながらフェアな論評で、歴代の監督と信頼関係を築いた。
【翻訳】
松澤浩三