「(中央にいた)ズラタンに折り返そうと思っていて、シュートの気持ちは5パーセントぐらいだった」
川崎フロンターレから殊勲の大逆転ゴールを決めた浦和レッズの高木俊幸は、自分でもなぜ決まったのか不思議がるように、神懸かり的なループシュートについてそう振り返った。
「狙っていたわけではない」と言うが、『5パーセント』は狙う気持ちがあった。そのあたりの真意を試合後に改めて記者陣が問ったところ、基本的には「シュータリング」が決まったということでいいようだった。
浦和が2試合合計スコアで同点(4-4)に追いつき、勢いづいて押し込む86分。対向のサイドにいた森脇良太がクロスを放つ瞬間、「このあたりにボールが来る、と読めた」と敵陣に駆け込んだ高木がスペースを攻略。ノーマークになりインサイドキックで合わせたボールは、突然スタジアム全体の時間を止めたかのように、ゆっくり大型GKチョン・ソンリョンの上にアーチ(弧)を描き、ゴールネットを揺すった。
2万6千785人の観衆を一瞬呆気に取らせたあと、両チームのサポーターに歓喜と絶望をもたらす。とはいえ、一番驚いたのが高木自身だった。
「(柏木)陽介くんから、攻め急ぎすぎていると言われ、確かにそうだと気付かされた。タメを作りながら、裏を狙っていくようにして、それが効果的だった。とにかく結果がほしかった。僕にとって結果とは、点をとること。それをこの大事な場面で残せて、自信にもつながる。とはいえ、今季は怪我もして、全然貢献できていなかったので大きなことは言えませんが(苦笑)。次も点を狙っていきます」
プロ野球の大洋ホエールズ(現在・DeNAベイスターズ)などで活躍した高木豊氏を父に持つ「高木三兄弟」の長男であり、東京ヴェルディにいる善朗が次男、大輔が三男。ヴァヒド・ハリルホジッチ監督の選ぶ日本代表の予備登録メンバーに2015年から登録され、最新のリストにも高木の名は載っていた。
ハイチ、ニュージーランドと対戦する10月のキリンチャレンジカップ、さらに12月の東アジアカップ(クラブ・ワールドカップと日程が重なる……)と、いずれも日本で開催され、メンバーはJリーグ組を中心に構成されると見られる。
右足のセットプレーキッカー役を担えて、しかも日本人では数少ない強烈な無回転ミドルを放てることも武器。そのアグレッシブさやガムシャラさを含め、ハリルジャパンに刺激を与える存在になれるはず。
このまま浦和で中心選手として活躍を続ければ、満を持して、A代表に初招集される――。その日が近づいたのは間違いない。
ちなみにACLベスト16・済州戦での逆転ゴールは、高木のクロスを森脇良太が決めたもの。今回は森脇のクロスに、高木が合わせた。
太陽と月のように性格もスタイルも異なるふたりが、それぞれを輝かせるプレーを見せて、再び大きな勝利をもたらした。それは何より浦和にとって、今後への明るい収穫になったはずだ。
取材・文:塚越 始
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