[選手権２回戦]創造学園 １（４PK２）１ 広島皆実／2017年１月２日／浦和駒場
 
　すでに時計は80分を回り、そのうえで数プレーをこなしていた。シーンは、敵陣で迎えた創造学園のスローイン。次が最後だと、スタジアム全体が感じているようだった。
 
　ロングスローをペナルティエリアに放り込む。撥ね返される。それを拾うと、サイドに残っていた徳武廉（３年）へ。放たれたクロスは森昂大（２年）の頭を経由して、ゴールネットを揺らした。
 
「この試合、勝った」
 
　最後尾で劇的な同点弾を眺めていた矢野遙希（３年）は、その瞬間に勝利を手中にしたと確信していた。慢心ではない。大会に入ってからはPKの練習を毎日していたし、そうでなくとも絶対の自信があった。
 
　まずはひとり目。「分析と同じ方向だった」。（GKから見て）ゴール左へと放たれたシュートを見事にセーブして、チームの勢いを加速させた。
 
　ふたり目、３人目は決められたが、自チームはすべてを決めており、４人目となる時点で２-３。次を止めれば、勝ち上がりは大きく近付く。
 
　そして、注文通りのPKストップ。「助走の入り方などでどっちに蹴るのか分かった」という。左へ飛んで、ボールを弾き出した。
 
　味方の４人目、樋口令惟（３年）のキックで勝敗が決した。80分過ぎまでリードを許していたチームに訪れた歓喜。
 
　ゲームを振り返れば、早い時間に先制を許して、その後も広島皆実に押し込まれ続けた。相手の上手さに翻弄された。それでも耐えて、耐えて、耐えて――。
 
　ベンチ前に戻ってきた矢野は、仲間と抱き合い、涙をこぼした。「ホッとしちゃって」。勝利の立役者となった赤色の守護神は、照れくさそうに微笑んだ。
 
取材・文：古田土恵介（サッカーダイジェスト編集部）

第95回高校サッカー選手権 ２回戦 創造学園 １（４PK２）１ 広島皆実